今日はゆっくり下り坂の天候。
11.望遠鏡の口径とシーイングについて
11-1. 口径とシーイングの関係
望遠鏡で天体観測をする上で、気流が良いとか悪いとか、シンチレーションが大きい・小さいとか、シーイングが良い・悪いといった表現が頻繁に出て来ます。
望遠鏡で星を見る人にとってこの辺の話は当たり前と言えば当たり前なのですが、私たちの頭の上にある空気の流れや気温の分布状態によって、望遠鏡の見え味というのはかなり変わるものなのです。
またこの空気の流れによる見え味への影響は、望遠鏡の口径によっても大きく変わるものなのです。
また直接「光学」とは離れた話になってしまうのですが、なぜ口径によって気流の影響が変わるのかについて本章では解説したいと思います。
よく望遠鏡で星を見るのは、小川のせせらぎの中にある石を見るようなものだという表現をします。
目で見てキラキラきれいに輝く星も、望遠鏡を使って高倍率で見るとチカチカ、メラメラ燃えているかのように見えることが多いです。
私たちの頭の上にある空気の層は常に流れていて、高倍率の望遠鏡にとってはまさにさざ波の立った水面下を見るようなものと言って良いのです。
ですから高倍率で星を観測しようとするときは、できるだけ気流の流れの穏やかな時を狙って観測するのがよいと言うことになります。
逆に気流の悪いときは、どんなに性能の良い望遠鏡でも高倍率では全く良く見えなくなります。
そんなこともあって世界の巨大望遠鏡は空気の薄い4000m級の山の山頂に建設されていたりするわけです。
また、山の中腹よりも山頂やふもとのほうが、中腹よりも気流がよいとか、できるだけ高く昇った天頂に近い星のほうが(空気層を通過する距離が短いため)気流の影響を受けにくいといったお約束もあります。
さらに望遠鏡の口径が大きいほど気流の影響を受けやすいという法則があります。
これは単純に考えても、口径の大きさに比例して分解能(解像度)が高くなるという原理がありますので、同じ気流の状態でも口径が大きくなるほど口径分の分解能が発揮できなくなるといった意味で分かり易いのですが、 実は話はもう少し複雑です。
上の図では気流を単純に青い波線で表現しています。
口径が小さいと入射する星からの光の束も小さいため、空気の乱れによる影響はかなり小さいものです。
しかし、口径が大きくなると光の束は太くなり、空気の乱れの影響がかなり大きなものになり、星からの光は大きく散乱されることになります。
上の図は断面で描かれているためピンと来ないかも知れませんが、実際には面積で効いてくるため、口径が倍(5cmが10cm)になれば4倍、4倍(5cmが20cm)になれば16倍も気流の影響を受けやすくなるということです。
分解能が口径に比例して細かくなるという二重苦と組み合わさり、口径の大きな望遠鏡というのは驚くほど、その口径の性能を発揮できる日が少ないものです。
スタパの40cm望遠鏡も100%口径分の見え方をしたのは、この数年に1~2度あるかないかです。
有効最大倍率の400倍以上が使えるのも1年のうち数回程度です。
年間120日くらい星を見ていてこの程度ですから、いかに絶望的な状態かが判ると思います。
経験的には口径の面積に反比例してよく見える日が少なくなるような気がします。
口径5cm望遠鏡で年間120日くらいよく見える日があるとすると、口径40cmの望遠鏡というのはレンズの面積が64倍になりますから、年間2日くらいしかよく見える日がないといった感じで、体験上の感覚に近い感じがします。
こんなふうに書くと、大望遠鏡はいらないという勘違いをされそうですが、気流が悪いときでも星雲星団など見え方は小口径とは比べものになりません。
あくまでも望遠鏡の分解能を100%活かすといった意味ですのでお間違えのなきよう・・・
11-2.シーイングによる具体的な見え方の違い
さて星空を眺めるときに空気が澄んでいるかどうかというのはとても重要なことなのですが、望遠鏡で拡大して天体を眺める場合には気流の落ち着き具合(一般には「シーイング」といいます)がとても重要になります。
冬は空気が澄んで星がキラキラしてみえることが多いですが、このキラキラが実はくせ者で、目で見てキラキラ見えるようなときは上空に強いジェット気流が吹いていることが多いです。
そんなときに望遠鏡で月や星を見ると、グラグラ煮え立ったお湯の中の石を見るような見え方になってしまい、細かい部分の観察ができません。
普段望遠鏡を覗かないかた(実はほとんどの人がそうだと思いますが)にはピンとこないかも知れないのですが、シーイングの善し悪しはとても重要なことなんです。
同じ条件の日でも、天体が地平線から昇ったばかりの時は空気の中を長く光が通るので、シーイングは悪いのでなるべく高く昇った時刻に観察をするのがベターということになります。
また一晩の中でも時間帯で善し悪しが変わったり、天候に変化で変わることもあるので、見え具合はいつも変わると思っていた方が良いです。
前節で述べたように口径でもシーイングの影響が変わり40cmの望遠鏡で見るより20cmのほうが良く見えることもおこります。
シーイングが悪い場合には星の光も散乱されるので暗い星が見えなく(または見えにくく)なります。
スタパの40cmでオリオン大星雲(M42)を見たとき星雲の中心にあるトラペジウムと呼ばれる4重星を見たとき、シーイングの安定しているときには4個ではなくさらに細かい星が2~3個あることに気付くのです。
どんなに素晴らしい光学系を持つ望遠鏡でもシーイングの善し悪しで見え方が全く異なるということを知っておいて下さい。
シーイングによる見え方の違いの具体例ですが、月の写真で説明します。
まずは普通のシーイングの月。
次に劣悪なシーイングの月。
シーイングの悪いときと言うのはピントもよく解らないので、仕上げの
段階でよけいに苦労することになります。
拡大して見比べて頂くとわかるのですが、後者の月は欠けていない方の縁がぼけた感じですし、全体に寝ぼけた写りになっているのが判ると思います。
星がきれいに見える夜だからといっても、望遠鏡でよく見える日だとは限らないということで、光学系を活かすにはシーイングも重要という結論です。
11.望遠鏡の口径とシーイングについて
・・・望遠鏡の見え味というのはかなり「か悪者」なのです。・・・
は、「変わるもの」の誤変換です。
阿修手羅異堂さま
ご指摘ありがとうございます。
訂正させて頂きました。