眼の話しの続きです。
昨日、一昨日と主に視細胞の中の暗いものを見るのに使う桿体と、暗順応に
ついてお話しました。
今日は星を見るのに役に立つ錐体の話しです。
本題に入るまえに、またまたクイズです。
またもや月にかんするクイズです。
上の写真にはお判りのとおり「500円玉」と「5円玉」と「画鋲」が写っています。
さて、このそれぞれの円形の物を手に持って、腕をいっぱいに伸ばした状態で
満月と同じ大きさに見えるのはどれでしょうか?
というのが問題です。 さー、お判りでしょうか・・・?
答えはまた明日、といういきたいところですが、書き始めたばかりですので
答えを・・・
正解
満月は5円玉の「穴」の中にすっぽり入ってしまいます。
「いんちき!」とか「エ~ッ、そんなに小さいの~」という声が聞こえそうですが、
実際、月の見かけの大きさというのは驚くほど小さいものです。
月が見えているときに(満月でなくても)ぜひ一度お試しください。
なぜ、こんな話をしたかといいますと、月の見かけの大きさというのは
約30’ (=0.5°)で、腕を伸ばしてみたときの5円玉の穴の大きさに相当する
くらい小さなものなのです。
角度の1°を1/60にすると1'(1分)と言います。月の見かけの大きさ(角度)は
その30倍の30’という大きさです。
でも、肉眼でも正常な視力の方なら、満月のうえに「餅つきのウサギ」や
「カニ」が見えたりとかなり細かく模様を観察することが出来るわけです。
人間の眼の分解能というのは1’ (1/60°)といわれていますので、理論上は
30’の月を30分割くらいして見分けることができる性能を持っているといえます。
さて、この辺から今日の本題です。
錐体が得意なのは「物の形を細かく見たり、色を見分ける」ことでしたが、
8月31日の記事で示した網膜上の錐体の分布をもう一度思い出してください。
視野中心には非常にたくさんの錐体が密集しているのに対して、視線中心から
10度も離れると錐体の数が非常に少なくなってしまいます。
普段、普通に生活をしているときにはあまり意識しないかも知れないのですが、
実は人間の眼がちゃんと見えている範囲というのはすごく狭い範囲なのです。
自分は視野の端まで全て良く見えていると思う方があるかも知れませんが、
試しに、パソコンのキーボードの中央付近の「G」の文字に片目で視線を固定
したとき、左右のキーのアルファベットをどこまで読むことができるでしょうか?
パソコンの環境や個人差も多少あると思いますが、すぐ隣の「F」や「H」は
読めたとしても、その外側の「D」や「J」はかなり怪しくなるのではないかと
思います。
そんなわけで、細かいものを正確に見分けたいときには、できるだけ
視線の中心で物を見なければならないわけです。
で、もう一度8/31の視細胞の分布図を思い出してください。
中心に近ければ近いほど錐体の数が多くなっていて、中心から1度も離れると
確実にその数が減っていることが判ります。
言い換えると、本当に細かいものを見分けるためには視野中心の0.5度くらいの
範囲で見てゆかなければならないということになります。
これ、暗いものを見るときの「周辺視」に対して、「中心視」といいます。
「中心視」が星を見るときにどんなふうに役立つかといいますと、
非常に接近した二重星や惑星の表面模様を見るときには絶対に必要な
テクニックです。
望遠鏡をあまりのぞきなれていない初心者の場合、望遠鏡を漫然と
のぞいていることが多く、視線を対象物にぴったり合わせることが
できずに、二重星が分かれて見えなかったり、惑星の模様が良く
見えなかったりすることが多いです。
どうすれば「中心視」ができるのかということですが、残念ながら
これはもう慣れてもらうしかありません。
個人差もありますが、1ヶ月くらいしつこくできるだけたくさん
惑星などをみて、眼を凝らして模様を見る努力を続けると見えるように
なります。(3日目くらいで見える人もいます。)
さて、いかがでしたか?
明るい天体を細かく見るときには「錐体」を積極的に使って「中心視」。
暗い天体をよりはっきり見るときには「桿体」を積極的に使って
「周辺視」というテクニック。
天体観測をするときの基本中の基本でもあります。
まあ、知識として知っていれば、あまり構えなくても気楽に星を見ていれば
そのうち身に付きますので安心してください。
眼の話、まだ続きがありますが、ちょっと間があくかも知れませんので、
ご容赦ください。