超入門 望遠鏡光学(22) ドロチューブについて

 

10.ドロチューブについて

鏡筒の遮光環について解説しましたので、その延長上にあるドロチューブについても解説しておきます。

10-1.ドロチューブの役目と長さ

ドロチューブというのは望遠鏡のピントを出すために前後させて調整する筒のことで、日本語では合焦筒といいます。

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この筒を前後させる機構には様々なものがありますが、ラック&ピニオン式の組み合わせが一般的です。(写真はラプトル60のドロチューブでラック&ピニオン式です)

望遠鏡光学には直接関係がないようなのですが、これまで説明してきた遮光環と同様、設計がちゃんとしていないと対物レンズの性能を引き出すとこができません。

ドロチューブの調整範囲がどのくらいあればよいかというと、その望遠鏡の設計思想により大きく変わります。

1.望遠鏡に直接 接眼レンズを付ける
2.望遠鏡に天頂プリズム(orミラー)を介して接眼レンズを付ける
3.望遠鏡にカメラを取付け、直接焦点撮影をする。

などの用途に部品を追加しなくてもできるのが理想ではないかと思いますが、1と2のあいだだけでも最低60mmくらいの調整幅が要求されます。

3で無限遠だけでなく、もっと近距離も撮影したいなどと言うことになるともの凄く長いドロチューブが必要になります。

初心者向けの「いろいろな用途に使える」ことを売りにした望遠鏡の中にはやたらに長いドロチューブを持つ望遠鏡もあるのですが、実はこの長いドロチューブというのは結構なクセ者です。

調整幅を広くしようと長いドロチューブにすると・・・

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上の図のようにドロチューブで対物レンズにケラレ(口径食と言います)が生じて、対物レンズで集めた光を有効に使うことができなくなってしまいます。

特に焦点距離の短い(口径比の小さい)望遠鏡では注意が必要です。

10-2. 機種による長さの違い

対物レンズの焦点距離(F値)にもよりますが、ドロチューブがあまり長いと口径食が生じやすくなり、対物レンズの性能を活かせなくなると言うのが前節の結論でした。

本節では実際の望遠鏡の実例をいくつか紹介します。

下の写真は先日レポートしたラプトル60(スコープタウン製、口径60mm、F11.7)の接眼部です。

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操出ストロークは130mmと充分な長さがあるため、天頂ミラーを付けても付けなくても、ほとんどの接眼レンズでピントを合わせることができます。

これだけ長いドロチューブでも、どの位置でも口径食が生じないように設計されています。

下の写真は口径10cmF5アクロマート(国際光器扱いマゼラン)の接眼部です。

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50.8mm径の接眼レンズが取り付けられる太いドロチューブですが、操出のストロークは60mmほどしかありません。

F値の小さな望遠鏡では操出量を多くすると、とたんに口径食が出やすくなりますので、この望遠鏡ではストロークを小さくしています。

天頂ミラー(orプリズム)と組み合わせるとピントが合いますが、ミラーなしではピントが出ない設計です。

このような設計の望遠鏡でミラーなしで使いたい場合には、下の写真のように

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望遠鏡と接眼レンズの間に延長チューブという部品を入れる必要があります。

延長チューブ分の長さのドロチューブが鏡筒内に入り込んで口径食を起こすより、使うときに多少不便でも性能を確保するという設計思想です。

ドロチューブも鏡筒の設計と同様、できるだけ太いものがベターで、必要に応じてドロチューブ内にも遮光環を設置する必要があります。

また、(特に短焦点の対物レンズでは)できるだけ操出量を小さくして、筒の長さが不足する分は延長チューブでしのぐというのが正しい考え方のようです。

10-3. 好ましくないドロチューブの例

短焦点の望遠鏡の場合、ドロチューブのストロークを長くすると口径食が生じるので、まともな望遠鏡はストロークが小さく、必要に応じて延長チューブという部品を使うという話を前節でしました。

ホームセンターなどで売られている安価な望遠鏡のなかにはこの辺がかなり怪しいものがあります。

下の望遠鏡は、大手メーカー「ケンコー」製の「NewMoonLight」という製品です。

現状の流通モデルかどうかは分かりませんが数年前にホームセンターで7千円くらいで販売されていました。

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この望遠鏡、ご覧の通りドロチューブが異常に長いです。

無限遠にピントが合う位置が下の位置です。

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このためドロチューブの先端は、かなり対物レンズに近い位置にあります。

この位置関係ですとカタログスペックの有効径50mmのうちの30mmくらいしか
使われないようになっています。

これは
・コストを下げるために細いドロチューブを使う
・いろいろな用途に使えるようにするため、操出ストロークを長くする
・初心者に親切に分かり易くするため「延長チューブ」は使わない
という設計思想によるためだと思います。

低価格の初心者向けを謳う製品の多くに、このように(程度の差はありますが)
口径食により仕様通りの口径が得られていないものが見受けられます。

車で言えば2000ccのエンジンを載せていますと言って、1200ccくらいの馬力
しかでないものを売るようなもので、もしそんなメーカーがあったら絶対に
許されないだろうし、社会的に葬られてしまうのではないかと思うのですが、
なぜか望遠鏡の世界では「ケンコー」という大手メーカでさえ平気でこういう
製品を売っているのですからおおらかな業界です。

それでもまだこの製品は月のクレーターくらいは見えるのでましなほうです。
(残念ながら土星の輪は見えませんでした。)

月のクレーターさえ見えないような製品もへ平気で売っているメーカーも
ありますので注意が必要です。

話がそれてしまいました・・・m(_ _)m

ちなみにこの「ケンコーNewMoonLight」ドロチューブをいっぱいに延ばした
状態では口径食がほとんどなくなり(それでも口径45mmくらい)、1mと離れて
いないところを見ることができる近距離用望遠鏡(望近鏡?)になります。

あまり近寄れない虫などを観察するのにはとても便利で、「アハ、こういう
使い方もあったのか!」と気付かせてくれた楽しい商品であります・・・(^_^;)

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