ガリレオ望遠鏡の謎(ミステリー)2

実験科学の父と言われるガリレオさんが、100本以上も望遠鏡を制作
していながら、ケプラー式のレンズの組み合わせを考案しなかったのは
謎である・・・というのが私の長年の疑問だったわけです。

ガリレオさんが今日では誰も見向きもしないレンズの組み合わせに
こだわっていたのか・・・

スコープタウン製の「ガリレオ式望遠鏡」で遊んでいるうちに、
ガリレオ式が当時としては最高の性能が出しうる組み合わせ
だったのではないかと思えてきました。

今日、ガリレオ式望遠鏡というのは

倍率を高くしようとすると極端に視界が狭くなること
位置測定用の目盛り線を組み込むことができないこと

などから、低倍率のオペラグラスか、安物のおもちゃレベルの粗悪品
くらいのものしか作られていません。

090629bino

唯一、例外で笠井トレーディングのワイドビノという商品があることは
ありますが、かなりマニアックなものです。(もちろんスタパにはあります。)
(最近ではテレコンビノといわれるマニア向けの商品も見かけます。)

話しがそれました。

まず、ガリレオさんがこだわったのは正立像であったことではないかと思います。

ガリレオさんの伝記を読みますと公私ともにかなり苦労をされたらしいことを
伺い知ることができます。

結構お金の掛かる家族がいて、資金繰りに走り回ることが多かったようで、
望遠鏡の販売がその資金源になっていたことが推測されます。

ガリレオ印の望遠鏡というのは当時、高性能であることが知れ渡っていて
貴族にはよく売れたのではないかと思います。

素人の貴族に売るのに、倒立像では受けが悪かったと思えるわけです。

今日でこそケプラー式の光学系に正立レンズやプリズムを入れて見える
ようにすることは簡単ですが、精度の低いレンズしかできない時代では
余計なレンズを入れることにより、像が著しく悪化するので実用的で
なかったと思えます。

そんなわけで、ガリレオさんがガリレオ式光学系にこだわった理由の
第一が正立像が単純な光学系で得られるためではないかと思うのです。

第二の理由は意外に視界が広いということです。(意外と思われるかも
知れませんがしばらくお付き合い下さい。)

スコープテックの「ガリレオ式望遠鏡」の紹介をしたときにも書きましたが、
初めにこの望遠鏡を覗くとあまりに視野が狭いことに驚かされます。

090629garireo1

覗くと筒の向こうの方に小さな光点があり、良く見るとその中に景色が
見えるという訳です。

この状態では20倍の倍率でも月の一部分(半分以下)しか見ることができません。

でもしばらく見ていると(前にも書きましたが)、望遠鏡を固定したまま眼の
位置を動かすことにより(壁の穴から外を見るような感じで)初めに見えた
中心以外の外側も見ることができることに気付きます。

スコープテックの「ガリレオ式望遠鏡」の場合、上下左右に中心視野の4倍くらい
(つまり9倍の視野角、80倍近い視野面積)が見えることが判りました。

これならば望遠鏡を固定したまま月全体をすっぽり見回すことができますし、
同倍率の単レンズ構成のケプラー式の視界とそれほど違いがありません。
(ケプラー式の場合は一度に全貌が見えますが・・・)

私の知る限り眼を移動することにより広い視野が見渡せることを書いている
解説書を見たことがありませんので、これはとても新鮮な発見でした。

解説書を書かれたほとんどのかたが、実際に高倍率のガリレオ式望遠鏡を
覗いたことがなく、理論と先入観だけで書かれているのではないかと
思えてきました。

実験科学の父ガリレオさんにはとても失礼な扱いに思えてなりません。

正立像が得られ、(一度に見えないまでも)ケプラー式と変わらない
視界の広さ・・・
これがガリレオさんのこだわりの第二ではないかと思います。

090629garireo2

カメラの絞りを解放でコリメート撮影すると意外に広い範囲が写ります。
(ピンぼけですが・・・)
これはレンズの前玉の面積が広く、上下左右に眼を動かしたのと同じ
効果が得られるためと考えられます。
(ちなみに絞ると(写真はありませんが)視野円が小さくなって行きます。)
ガリレオさんがガリレオ式にこだわった理由の第三は、同じシングルレンズの
ケプラー式よりも収差(特に色収差)が少ないということです。

ガリレオ式のレンズの組み合わせをもう一度思い浮かべて頂くと・・・

対物レンズに凸レンズ、接眼レンズに凹レンズが使われているのですが、
これ、見方を変えると現在では当たり前のアクロマートレンズの構成に
近いと思いませんか?(超~分離型ですが・・・)

アクロマートレンズというのは屈折率の違う凸レンズと凹レンズを
組み合わせることにより、レンズによるプリズム効果で色毎に変わる焦点の
位置をできるだけ一点に集まるように調整して倍率を上げたときに気になる
色にじみを軽減しています。

ガリレオ式望遠鏡の場合も対物レンズと接眼レンズの屈折率をうまく調整すれば
色収差を大幅に(少なくとも両方凸レンズを使うケプラー式より)軽減できる
のではないかと思います。

シングルレンズの場合、対物レンズの口径と焦点距離が同じで、倍率も同じなら
ガリレオ式のほうが(たぶんですが)よく見えるということをガリレオさんが
知っていたのではないかと考えられます。

対物と接眼のガラスの材質(=屈折率)を変えると良いということも(実験科学の父
ですから)経験的に知っていたのではないでしょうか?

ガリレオさんの作った望遠鏡というのはとてもよく見えたと評判でしたし、
ガリレオさん自身もかなりそれを自慢していました。

でも100本以上作ったといわれている中で、まともに見えたのは1割程度
だったともいわれています。

当時のガラスの製法ではなかなか望遠鏡の使用に耐える質の良いレンズが
できなかったのが原因といわれていますが、対物と接眼のレンズの屈折率の
不適切な組み合わせが、まともに見える確率を低くしていたのではないかと
私は推測しています。

光学設計の詳しい知識があるわけではないし、ガリレオさんの作った望遠鏡の
レンズの材質を知っているわけではないのであくまでも推測なので
悪しからず・・・

もう少し時代が下ると、対物レンズの焦点距離を異常に長くして、接眼レンズを
2枚玉にして色収差を軽減するケプラー式が主流になるのですが、
ガリレオさんの時代のレンズや望遠鏡の製作技術からすると、ガリレオ式望遠鏡
こそが、当時最高の光学系であったのだと思えるのです。 (完)
本記事は2009/6/22~6/30の間にスタパオーナーの八ヶ岳日記に
掲載したものを再編集したものです。

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