超入門 望遠鏡光学 (その8) 倍率について考える1

6.倍率について考える

6-1. 倍率の求め方と適切倍率

さて、本章は倍率について考えるです。

望遠鏡を選ぶときの基準として、いまだに「倍率」を重視する人が圧倒的に多いのは困ったものです。

高倍率 = 高性能 という素人だましの限りなく詐欺に近い商品を平気で流通させるというモラルのない業者がいつまでたっても無くならないという不思議な業界です。

そんなわけで、倍率について正しい認識を持って頂こうというのが、今回のテーマのひとつでもあります。

まずは倍率の求め方(計算のしかた)です。

100607f

まともな望遠鏡であれば、鏡筒のどこかに必ず上のような、その望遠鏡のスペックを示す記載があります。

ここでD=50mm は望遠鏡の有効口径(レンズ自体の大きさではなく実際に光が通過できる部分の直径)。

F=600mm は対物レンズの焦点距離を表します。

倍率を計算するときに重要なのは、この焦点距離です。

望遠鏡の場合、対物レンズだけでは拡大像を見ることができず、必ず接眼レンズ(アイピースともいう)と組み合わせて使うのですが、

100607eyepiece

接眼レンズ側にも必ず焦点距離のミリ数表示があります。

で、倍率はというと

倍率 = 望遠鏡の焦点距離 ÷ 接眼レンズの焦点距離

という計算で簡単に求めることができます。

上の2枚の写真は、いつも登場するラプトル50と、その付属接眼レンズ(一部他の望遠鏡の付属品もありますが)を使っていますが、望遠鏡である限り上の計算式はラプトル50だろうとすばる望遠鏡だろうと成り立ちます。

(どうしてそんな単純な式で計算できてしまうのかなどは、別の機会に紹介したいと思っています。)

この計算式がある限り、例えば・・・

100607_2mm

こんな接眼レンズ(焦点距離2mm)があれば、ラプトル50でも300倍という高倍率が理論的に(実際にも)出せてしまうということになります。

でも、ここで勘違いしないで頂きたいのは、計算上で高倍率が出せたとしてもちゃんと見えるかどうかは別問題だということです。

高倍率にすると、どのような弊害が出るのか、次節に詳しく説明したいと思います。
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6-2. 適正な倍率とは

今日は望遠鏡で倍率を上げすぎると何が良くないかという話です。

結論から言いますと倍率を高くすると

1.像が暗くなる
2.像がぼける

という光学的な問題と、

3.視界が極端に狭くなり使いづらい
4.架台の機械強度がついて行かずブレが大きくなる

などの機械的問題も出てきて、実質的に使い物にならなくなります。

ここでは上記の1と2について解説してゆくことにします。

天体望遠鏡はたくさんの光を集めて、暗い天体を観察するという目的がありますので、口径の大きな物の方が有利です。

望遠鏡がどれだけ光を集められるかという性能を表す「集光力」という言葉があります。

これは人間の眼(瞳が最大に開いた時に平均的に7mmになります)に対して、望遠鏡のレンズの有効径の面積が何倍になるかという単純な値で、

集光力 = ( 有効径(mm) ÷ 7(mm) )^2

という計算で算出することができます。(光学系の透過率や反射率は無視します。)

例えば口径50mmのラプトル50なら

(50 ÷ 7)^2 = 51 (倍)

という肉眼の51倍の集光力になります。

51倍の集光力だから51倍の倍率にして良いかというと、話はそう簡単ではありません。

望遠鏡では、倍率が倍になると見かけの面積は4倍に明るさは4分の1になります。(倍率10倍では明るさが1/100!、50倍では1/2500!!)

つまり肉眼で見たのと、望遠鏡を通してみた像がほとんど同じ明るさに見えるためには、(瞳孔径が7mmとして)

倍率10倍では集光力が100倍、
50倍では 〃 が2500倍 なければいけないことになります。

口径ごとの肉眼で見たのと変わらない明るさになる倍率の計算は

有効径(mm) ÷ 7(mm)

という計算で求めることができます。

ここで求めた倍率は、実は有効最低倍率と呼ばれる倍率でもあって、逆に言えばこれより倍率を低くしても、望遠鏡が集めた光を全部眼の中に導くことができなくなるという倍率です。

この有効最低倍率に対してどのくらい暗くても我慢ができるかというのが目安になるかも知れませんが、見る対象が明るいか暗いかによっても変わりますので一概に言いにくいですが、100分の1くらいの明るさらわりと我慢できそうな気がします。

人間の眼というのは、かなり明るさの変化に対して寛容で、追従性が高いです。

例えば、明るさごとのシーンを紹介すると・・・

10万ルクス: 真夏のカンカン照りの浜辺
1000ルクス: わりと明るめのオフィスのデスクトップ
100ルクス: やや暗めのファミレスのテーブル(長時間でなければ新聞読める)
1ルクス:  市街地の歩道の防犯照明(歩くのに困らない)

ざっくり100倍明るさの違う例を示しました。

100倍くらいの明るさの違いなら何とか眼がついてゆきそうな気がしませんか?

実際に満月の明るさというのは真夏の昼間の明るさに相当します。

これがオフィスのデスクトップの明るさくらいになっても、充分月の観察ができると思いませんか?・・・というわけです。

ちょっと暗いのを我慢すればその半分くらいの明るさでも我慢できそうな気もします。

つまり月を見る場合には、有効最低倍率の200分の1の明るさでも何とか見えそうな気がします。

1/200の明るさは、有効最低倍率の14.1倍(=√(200))に相当します。

つまり口径が50mmであれば、有効最低倍率は

50 ÷ 7 = 7.1 (倍)

暗さが我慢できる最大倍率は

7.1 × 14.1 = 100(倍)

ということで口径(mm)の2倍くらいの倍率が限界になりそうです。

かりに口径50mmで300倍の倍率を出すと明るさは

(300 ÷ 7)^2 = 1836

と1/2000近い暗さになって、我慢できないほどの薄暗さになることが予想できます。

(文字が多くてすみません・・・続く・・)

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