7.正立光学系について
7-1. 天体望遠鏡は逆さまに見える
天体望遠鏡というのは物が逆さまに見えます。(これは2章「望遠鏡の原理」のところで解説しました。)
上とか下というのは人間が決めたもので、宇宙には上も下もないから天体を見る分には逆さまでも全く困らない。
ようは慣れです・・・・というのが望遠鏡を提供する側の考え方です。
実際、慣れてしまえばどうということも無くなるのですが、双眼鏡のように正立像が見えたほうが(特に初心者には)使いやすいし、地上を見るのには絶対正立のほうが良いです。
でも、逆さま(倒立像)を正立させるには、反転させるための余計な光学系を組み込まなければなりませんし、余計な光学系を組み込めば、高倍率で鮮明な結像が求められる天体望遠鏡には相当精度の高いものを使用しなければならず、コスト的に無理が生じます。
もう一つの理由として、天体望遠鏡の場合、眼視観測では天頂付近を見るときには天頂ミラーや天頂プリズムといった望遠鏡の光路を90度曲げる部品を使用することが多いので、その組み合わせでまた像が反転したり逆転しないように考えるのも、ややこしいです。
そんあこともあって「天体望遠鏡は倒立像」というのが常識になっているようです。
それでも、天体望遠鏡で正立像を見るためにはどうすれば良いか・・・
スタパでは従来から星の手帖社の組立天体望遠鏡を販売しているのですが、このラインナップの中に「正立像望遠鏡15倍」があります。
組立望遠鏡ですと中身が分かりやすいので、この望遠鏡を用いて正立像を得るための機構について説明します。
7-2. プリズムを使用した正立方法
「正立像望遠鏡15倍」の部品の中には2個の直角プリズムが入っています。
この2個のプリズムを下のように組み合わせて、対物レンズと接眼レンズの
間に組み込みます。
このプリズムのなかで4回反射を繰り返すことにより、倒立像を正立像に変換します。
実はこの組合せはポロタイプと呼ばれる一番オーソドックスな双眼鏡の
正立システムと同じです。
望遠鏡として困るのは、正立像を作るために4回の反射が行われると言うことです。
上にも書きましたが、反射をする度に像は暗くなり、像のボケが増幅されて行きます。
例えばプリズム各面の反射率が95%だったとしても4回反射すれば・・・
(0.95×0.95×0.95×0.95=0.815)となり2割近くも光が弱まってしまうわけです。
いかにたくさん光を集めて暗い星を見るか、いかに高倍率でも解像度の高い像を得るかというのが天体望遠鏡の使命ですから、余計な部品を組み込まずに使うというのが基本になるのです。
まあ、15倍くらいの倍率ですとその辺のアラはほとんど気にならないレベルで、望遠鏡に詳しい人が、正立でない通常の望遠鏡と並べて見比べてようやく判るレベルなのでそれほど目くじらを立てることはありません。
100倍くらいの高倍率になると、像のボケや暗さが大きく影響するので無理に正立させるのはお勧めではありませんが、低倍率では積極的に正立を使って良いと思います。
特に地上の風景、鳥の観察などにはやはり正立が必須ですが、天体を見るのにも上下左右の関係がストレートなので、直感的に望遠鏡を振り向けることができます。
倒立像ですと視野の端にある星を中央に移動しようと思っても直感的には中央に移動するのはかなり慣れが必要ですが、正立像ですと誰でも簡単に中央への移動が可能になりますので、子供でも簡単に使いこなせるようになるというメリットもありますので初心者向けとしてはベターな選択かもと言えます。
続く・・