眼の話(星を見るのに役立つ) -その7-

7.眼の分光感度特性 明所視と暗所視

人間の眼には様々な色の光が見えます。

光の波長でいうと、だいたい380nm(ナノメートル)の紫から780nmの赤い光までを
見ることができます。

この範囲の全部の波長で同じ感度なのかというと、そうではなく555nm(緑)の
あたりの感度が一番高くなっています。

090909V(l)

この図は「CIE標準比視感度曲線」(通称V(λ)(ブイラムダ))と呼ばれている
曲線で、人間の眼の波長別の感度を示すグラフです。

少し話しがそれますが・・・

「CIE」というのは「国際照明委員会」の略称で、照明関連の国際規格を策定する
機関です。現在ではCIEの規準がほぼそのままISO規準格上げされます。

ちなみにISOは国際標準化機構の略称。
写真関係ではISOといえば感度のことのように思われがちですが、ISOが
定めた規準のひとつに過ぎません。

日本工業規格(JIS)も多くがISO規準に統合または融合しつつあります。

ところで、ISOの読み方ですが、日本では「イソ」と発音する人が多いのですが、
世界中で「イソ」と読むのは日本だけらしいです。

多くは「アイエスオー」(まんまです)が多いようですが、ISOを策定している
現場では「アイソ」と発音することが多いようです。

感度は「イソ八百」というより「アイソ800」といったほうがスマートですよ・・・

だいぶ話しがそれました・・(m_m)
V(λ)は電磁波である光の物理量を、人間の眼に感じる光=感覚量に変換する
ための非常に重要なファクターです。

厳密に言えば個人差や人種、年齢などによっても変わるのですが、
これがフラつくと、照明の質や明るさの規準が根底からひっくり返って
しまうので、国際規格で「人間の眼の感度はこうです」ということに
決められている訳です。

グラフには点線で示されたV'(λ)(ブイダッシュラムダ)が描かれていますが、
こちらは暗いところでの視感度曲線「暗所視比視感度曲線」です。

ピークが507nmあたりにあって、明所視のV(λ)より少し青い方にずれている
のが特徴です。

通常、比視感度(V(λ))というと特に断らない限り明所視(明るい場所の見え方)
をいいます。

V(λ)と暗所視のV'(λ)のズレは50nmくらいなので、ちょっと見ただけでは
それほど大きな違いが無いように思うかも知れません。

でも、良く見ると青や赤の色の見え方は全く違うことがわかります。

たとえば、450nm(青)の感度を見てみるとV'(λ)はV(λ)の10倍くらい高い
感度があります。

逆に600nm(赤い近いオレンジ)の感度はV(λ)がV'(λ)の20倍くらい高く
なっています。

つまり暗所視では赤はほとんど感じられず、青ばかりが良く感じられるという
ことになります。

暗い場所だと、何となく視界が青く感じられることが多い思いますが、
この現象は昔から知られていて「プルキンエ現象」といいます。

歌の世界で、「月が青い」とか「蒼い月の光」といった表現の歌詞を誰でも
2~3曲はすぐに思い出すのではないでしょうか?

でも、月の表面は無彩色(灰色)で、太陽の光を反射しているだけですから、
月の光の成分は(明るさが違うだけで)ほとんど太陽光と同じです。

つまり、月の光は断じて青いわけではなく、「プルキンエ現象」によって
青く感じているというわけです。

090910tukiyo
デジカメで月夜の写真を撮ると全然普通の昼間のように写り、青い感じに
ならないことが多いです。
かえって面白くないので、雰囲気を出すためにパソコン上で少し青を強めて
処理をしています。

さてここでもう一度、眼の視細胞について思い出して頂きたいのですが、
明るい場所で色や形を認識するのは、視細胞の中の錐体。
主に暗い場所で働くのが桿体ということになっていました。

このことを比視感度の図に当てはめてみると・・・

V(λ)は錐体の感度特性で(細かく見ると錐体には赤錐体・緑錐体・青錐体の
3種類があって、それそれの合成感度がV(λ)ということになります)、
V'(λ)は桿体の感度特性そのものということになります。

明所と暗所では使っている視細胞の種類が異なっているため、比視感度に
ズレが生じるということがおわかり頂けたと思います。

でもここで新たな疑問も生じます・・・

桿体は色を感じることができない視細胞のはずなのに、暗い場所で青く感じる
のはなぜなのでしょうか?

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