月光浴の科学(サイエンス)  -その3-

-月の満ち欠けと明るさ-

満月の日に月を見るとお盆のように丸く見えます。

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満月の時はいつ見てもそうなので、別に不思議にも思わないかも
知れないのですが、実はこれとても不思議なことなんです。

月が本当にお盆のように平らな存在なら、太陽の光を均等に反射する
ので、一様な明るさに見えて不思議はありません。

でも月以外の太陽系にある球形をした天体(=太陽と惑星)はそんな
ふうには見えません。

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周辺減光といって中心部分よりも周辺部のほうが暗くなるのが
普通なんです。(上の写真は木星ですが、明らかに周辺が暗く
なっているのが分かります。)

通常の物体表面の反射特性というのは正面から当たった光は
拡散反射をしてわりと輝度が一様に見えます。

しかし、とても浅い角度で光が入射すると正反射をする分が増えて、
光が入射した方向に拡散成分の光が反射されなくなるという現象が
多くの表面反射で起こります。

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図が少し変なのはご容赦・・

このため惑星の周辺部に射し込んだ太陽の光の多くは正反射されて
入射方向に反射しないので、周辺部が暗く見えるという現象が起こり
ます。(太陽の場合は少し違う原理になりますが・・・)

ではなぜ月はお盆のように周辺部まで均等な明るさなのでしょうか?

月の表面というのは月ができて冷えて固まってから少なくとも30億年
くらいの時間、宇宙から降り注ぐ細かい塵が降り積もっています。

大きな隕石が落ちてクレーターを作ることもありますが、ここ数億年は
その頻度は非常に小さく、地球に落ちてきて流星になるような小さな
塵が月にも降り注ぎ続けているのです。

アポロ宇宙船の飛行士達は月面活動でこの細かい塵が宇宙服に着いて
しまい、とても苦労したそうです。

この塵はレゴリスと呼ばれ、月の表面全体に微少な凹凸を作るように
堆積していると考えられています。

そしてこの微少な凹凸こそが満月をお盆のように見せる原因なのです。

下の図はレゴリスの凹凸の断面を模式的に描いたものです。
(実際はもっとランダムですし、面で広がるのでこんなに単純では
ありませんが・・・・)

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満月の場合、地球は太陽を背にして月を見る位置関係になります。
(太陽-地球-月 の順にほぼ一直線に並びます。)

このとき月の中央部付近は図の左側のように、レゴリスの中の方まで
太陽光が入り込み全体が一様に光ります。

また月の周辺部は図の右側で光の入射方向から見るような形になる
ので陰や影は見えない状態です。

微少な凹凸があるおかげで周辺部でも光の入射角が大きくならず、
拡散反射成分が多いので周辺減光が発生しないということになります。

周辺減光が発生しないので縁まで明るく見えてお盆のように見えると
いうわけです。

月の明るさに関するもう一つの不思議は、満月が近いと急激に明るく
なるという不思議です。

月夜は夜道を歩くのに提灯がいらない明るさがあると書きましたが、
実際にはどのくらいの明るさなのでしょうか?満月は0.25lx(lxは
照度という明るさの単位、ルクスと読みます)という明るさがあると
言われています。太陽の明るさは10万lxで、満月の40万倍の明るさが
あることを考えると、驚くほど暗いような気がします。

でも、人間の眼の順応力も捨てたものではなく、満月の明るさの10分の1
くらいでも、開けた夜道を歩くくらいなら充分です。

満月の明るさが0.25lxなら半月以下に細くなった月でも充分な明るさに
なりそうな気がしますが、話はそう簡単ではありません。

下の図は月齢による月の明るさの変化を示すものです。

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満月の前後1~2日で急激に明るさが変わるのが分かると思います。

半月(上限・下弦)は満月と比べ見かけの面積は2分の1なのに明るさは
8%しかないのです。

ちょっと信じがたいように思うかも知れませんが、写真を写すと
とても良くわかります。

下の写真は、同じ場所で「満月の日」と「満月から4日後」に撮影したものです。

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「満月から4日後」の明るさがずいぶん暗いのが分かると思います。

不思議ですね・・・。

実はこの現象もレゴリスの微少な凹凸の存在で説明することができ
ます。

先ほどのレゴリスの凹凸の模式図をもう一度見て下さい。

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満月の時には地球からはレゴリスの影を見ることができず、一様に
輝くのですが、少しでも光の入射方向から見る方向がずれると模式図の
一番右側のようにレゴリスの影の部分が見えるようになって、
月面の平均輝度が急激に下がることが想像できると思います。

下の写真は雪が降った後に雨が降り、雪面上に小さな凹みがたくさん
できた所に、左側の低い場所から朝日が射し込んだ状態です。

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平坦な部分は小さな凹みの影で平均的にはグレーに見えます。

一方、少し盛り上がって斜面が太陽のほうに向いている部分は光が
小さな凹みの中まで届いて影がなくなるので白く輝いて見えます。

月の表面というのはまさにこのような小さな凸凹で覆われているので、
満月の時にお盆のように見えたり、満月から少しでも日がずれると
急激に暗くなるという現象が起こる訳です。

下は半月の写真です。

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月面上で太陽が真上にある部分(写真左側の月の縁(円弧の部分))は
満月の時と同じように明るいので露出オーバーになります。

また欠け際に近づくにつれ輝度が下がってゆき、欠け際ではかなり
露出アンダーになります。

このような現象も月の表面が微少なレゴリスに覆われているということで
説明がつきます。
満月前後が急激に明るくなる要因として実はもう一つあります。

満月の時に月を望遠鏡で見ると光条と呼ばれる光の筋がたくさん見え
ます。(下の写真は画像処理で光条を強調しています。)

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この光条は満月近くなると特に明るく輝くのです。

月のクレーターは隕石が衝突してできたといわれていますが、隕石が
衝突したときには、たくさんの土砂が吹き飛ばされます。

吹き飛ばされるときには衝突エネルギーで、かなりの高温になります
ので、融けた砂粒は落下するまでに表面張力で球形になって月面に
降りそそぐことになります。

再帰性反射材というのは道路標識や事故防止の反射テープなどに
使われる材料で、光が入射したのと同じ方向に反射するように
作られた反射材料です。

これは球形のビーズが、下の図のように入射した光を入射した方向に
反射する原理を応用したもので、微少なビーズがビッシリと基材の
上に並べられたものです。

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簡単に言うと光条の部分には再帰性反射材と同じように機能する物質が
ばらまかれていると考えて良いと思います。

満月のときというのは、太陽と月が地球を挟んで一直線に並びます。

ほぼ地球の真後ろから太陽光が月に当たり、再帰性の効果により、
太陽の方向にたくさんの光が反射されるため、地球から見ても月の
光条がより明るくなって見えるというわけです。

個人的にはこの光条の部分以外にも、この再規制反射材のような
塵が月面上にたくさんあって満月になると特に明るくなるのを助けて
いるのではないかと思っています。

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