月光浴の科学(サイエンス) -その11(完)-

-月光写真を撮ろう-

本節のテーマは「月光写真を撮ろう!」です。

091027gekko2

満月の灯りだけで写真を撮るということはどういうことか?
というところを「月光科学」的に掘り下げてみたいと思います。

満月の明るさというのは、前にも書きましたが、直射日光の
約40万分の1です。

つまり単純に考えて、昼間写真を撮るときの設定の40万倍の光を
カメラの受光素子やフィルムに与えてやればよいことになります。

最近では何でもカメラ任せで、ただシャッターを押すだけできれいに
撮れてしまうのですが、受光素子に適切な光を与えるためにカメラが
3つの設定要素を自動的に調整しています。

3つの設定要素とは次のとおりです。

1.シャッタースピード

受光素子に光をあてる時間です。昼間の屋外では1/250秒とか1/125秒が
使われ、室内では1/30秒以下になることが多い。

ちなみに1秒の露光時間は当然ですが1/1000秒の1000倍の露光量です。

2.絞り値

レンズの面積(口径)を変えて光の量を調節する方法。

口径が半分になれば面積が1/4になるので、露光量も1/4になります。

例えばF値2が4になれば、露光量が1/4になる。

いきなり1/4になると露光量を調整しにくいので1/2ずつ変化するように
F値の段階が決められています。

F=1 , 1.4 , 2 , 2.8 , 4 , 5.6 , 8 , 11 , 16 , 22 , 32
(通常は16か22まで、コンパクトデジカメでは8前後まで調節ができる)

3.ISO(アイソ)感度

フィルム時代はフィルムで感度が決まりましたが、デジカメでは
カメラの設定でISO感度が調整できます。

基本はISO100ですが、最近では高感度が売り物のカメラも多く
ISO6400以上が選べるカメラも出ています。

ただ、感度を高く設定すると得られた画像がざらついたものになり
がちです。

カメラ個々の性能にも差がありますが特に月光写真ではISO400~800
くらいで使うのが無難。

前置きが長くなりましたが、昼間の40万倍の露光量にするには、
この3つの設定値を大きくして受光素子にたくさんの光が当たる
ようにしてやればよいことになります。

昼間の適正露光量は1/250秒、F16、ISO100というのが標準的です。
(真夏の浜辺などの設定値)

仮にシャッタースピードを1秒(250倍)、絞りをF2.8(32倍)、
ISO800(8倍)にすると、

250倍×32倍×8倍=64000倍

となり40万倍にはまだ足りませんが、シャッタースピードを
6秒くらいまで延ばせば適正露光になります。

ちなみにこれは一つの目安で、露光量が同じであれば良いので、
シャッタースピードを倍の12秒にして、絞りを一段絞りF4にする
とか感度設定を高くして、他の設定を下げるとかは使う機材の制約
とか、その場の判断でどう変えてもかまいません。

とりあえず満月の夜に昼間のような写真を撮るための設定だという
ことです。

091027gekko

ただ、この「昼間のような」というのがクセ者で、夜なのに昼間のような
写真というのは実はかえって少し不自然なものになってしまいます。

むしろ少し露出アンダー気味のほうが、臨場感のある写真になります。

091028yoru

デジカメであれば写しながら自分のイメージに合う露光量を見つけて
ゆけば良いのでだれでもわりと簡単にこのような写真が撮れます。

月の明るさというのは(その3に書きましたが)、満月の前後2日
くらいはたいへん明るいのですが、それ以上離れると急速に暗く
なってゆきます。

きれいな月光写真が撮りたければあまり満月から離れた日だと風景が
写りにくくなります。

風景と星空のどちらを強調するか、どんな表現をするかなどによって
適切な月齢が変わるので試行錯誤しなければいけない面も多いです。

上記で「誰でも簡単に」と書きましたが、それなりにコツというか
最低限必要なテクニックがいくつかありますので、紹介しておきます。

SANYO DIGITAL CAMERA

まず、絶対に必要なのがカメラ三脚です。

これがないとブレブレの写真になって、あとから「UFOが写った!」
とか「霊が現れた!」などと騒ぎになりかねませんので、10秒とか
20秒の間シャッターを開いたままでもカメラがぶれないような
しっかりした三脚を準備して下さい。
(最近のISO10万くらいが設定できるカメラだと手持ちでも撮影でき
なくはないですが・・・)

次に必須ではないですが、リモコンまたはレリーズスイッチがあると
ベターです。

いくら三脚に載せても普通にシャッターを押すとどうしてもブレます。

ブレないようにセルフタイマーを使う手もありますが、思った瞬間に
シャッターが切れるリモコンやレリーズがGoodです。

あとはカメラ側の要件ですが・・・

月灯りでは、一眼レフタイプならファインダーでかろうじて写る
範囲を見ることができますが、液晶ファインダーは何もファインダーに
映らず全く役に立たないことが多いので、フレーム決めの面では
一眼レフタイプが有利です。

また、一眼レフでもオートフォーカスが効かなくなります。

マニュアルフォーカスで無限に合わせるか、遠景モードにして
だいたいピントが合うようにしますのでそういう設定が使える
カメラが必要になります。

それでもなぜか露光量だけはカメラ側が自動で決めたがります。

ここでカメラ任せにすると、昼間のように写ってしまうので、露光も
マニュアルにするか、試し撮りをしてアンダーに補正するなどの
調整が必要になります。

ここまでわかれば、あとは月夜の晩にデジカメを持って外に出るだけ。

091028yoru2

素敵な月光写真を撮って頂ければと思います。本当のところ月光写真
というのはもの凄く奥の深い写真のジャンルだと思っています。

月齢による月の明るさ、高さ、雲の動きなど、昼間の写真以上に
シャッターチャンスが限られていて、ちょうど良い月齢の時に
紅葉や桜の時期とずれていたりなど、本当に同じ情景の写真は二度と
撮れないかも知れないと思うことが多いです。

140614seikei

そういった意味で高い機材さえあれば、わりと誰にでも写せてしまう
(誰が写してもそれほど差のない)星雲星団などの天体写真よりも
遙かにスリリングで、感性や粘り強さの有無が写真のできに差が
出る分野です。

たくさんのかたが月明かりをうまく使った写真に挑戦してくれると
嬉しいですね。

カテゴリー: 月光浴の科学, 蘊蓄の部屋 パーマリンク