月光浴の科学(サイエンス)  -その9-

-地平線近くの月は、なぜ大きい?-

この節のテーマは、地平線(水平線)近くの月(太陽)は、なぜ大きく
見えるか?です。

これ「月光科学」のテーマとは少し離れるのですが、月を見るときに
とても不思議に思うことの一つです。

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実際のところ、昇ったばかりの月と、天頂近くにある月とでは、
地球の半径分(約6370km)天頂にあるほうが近づくことになるはずで、
大きく見える要素はどこにもありません。

むしろ、大気の屈折現象で上下につぶれて見えるぶん、小さく見える
はずです。

私自身、不思議でならないのですが、最近ではどうも目の錯覚と
いうか、脳で月の大きさを認識する際のバグなのではと考えられる
ようになっています。 以下に詳しく解説したいと思います。

物を見るという仕事は眼だけで行われるのではありません。

こういうと他にも見るための第三の眼があるのかと誤解されそう
ですが、そうではありません。

眼というのは単に、画像データ(明暗や色)を脳に送るためのセンサー
でしかありません。

実際には脳が送られたデータを必要に応じて画像処理をして認識を
容易にするようにしています。

輪郭の強調処理をしたり、過去の記憶データと照らし合わせ、
それが何であるかを認識したりする作業は脳が行っているわけです。

眼から送られたデータを元に脳は、よりハッキリ見るための画像処理を
いろいろやっています。

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上の図には黒から白までの短冊が並んでいますが、それぞれの短冊の
右辺と左辺では色の濃さが変わっているように見えませんか?

でも両サイドの短冊を紙などで隠してみるとわかるのですが、
それぞれの短冊の色の濃さは、短冊内では一様になっています。

ちょっと信じがたい感じがするかも知れませんが、ぜひ試してみて
下さい。

これはわりとよく知られた脳の画像処理の一例で、輪郭の線のない
ところに輪郭を認識するために境界部の色の濃さを強調するという
処理が行なわれているというものです。

そのほか同じ長さの物なのに違って見える錯視とか、線のない
ところに線を思い描いて形が見えてしまう現象など様々な画像処理の
バグが知られています。

今見ている自動車が、おもちゃなのか、本物なのか、それとも写真
なのか人間は瞬時のうちに過去の膨大な記憶と照合して見極める
ことができる能力も持っているのですが、遠くにある物については
意外に簡単にだまされてしまうこともあります。

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上の写真のパラボラアンテナ、人が持ち上げられるほどの大きさ
ですので(笑)、それほど大きく感じないかも知れません。

せいぜい20mくらいかな? なんて思いませんか?

下の写真をご覧下さい。

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少なくとも40から50mくらいはありそうだと思いませんか?

正解は、どちらも同じモノ。

このパラボラ佐久市臼田町にあるJAXAの衛星管理用のアンテナで、
国内でも最大級、直径64mのものです。

上・下の写真の違いは(撮影している向きも違いますが)、周囲の比較
できる景色の違いが大きいです。

上の写真は比較できる物が人物だけなに対して、下の写真には建物や、
車や小さな人が写っていて、充分に比較のできる物が写っているので
冷静に大きさの判断ができるというわけです。

このように人間というのは、周囲にある物により大きさが違って
見えるという間違いをするものなのです。

前置きがずいぶん長くなりましたが、月が昇ったばかりというのは
月の周囲に山や木やビルなどが見えているはずです。
(海から昇る場合もありますね・・)

この山や木やビルというのは人間の感覚からすると、かなり大きな
物という認識が強くあります。

でも実際に月の出が拝めるようなところというのは、かなり開けた
場所で、昇ったばかりの月のそばに見える「山や木やビル」というのは
かなり遠くにあって、見えている大きさというのは実はすごく小さく
しか見えていないわけです。

その近くに月が昇ってくると「山や木やビル」よりも大きく見える月が
あるわけで、「ああっ、月は大きい・・・」と感じることになると
いうわけです。

月の見かけの大きさというのは、腕をいっぱいに延ばして持った
5円玉の穴の中にすっぽり入ってしまう大きさです。

どんなに大きく見える時でも、どんなに小さく見える時でもこの
大きさは変わりませんので、どんなときでも月が見えたら5円玉で
ぜひ試してみて下さい。

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