3.明順応と暗順応
機械のデジカメと生き物の眼ですから、もちろん、細かく見れば違っている
ところはたくさんあるのですが、システムとして大きく異なるのが、
眼にはシャッタースピードという概念が無いというところです。
最近のカメラはほとんど自動で写真が撮れてしまいますが、
写真を撮影する場合には、レンズの絞り値、露出時間(シャッタースピード)
そしてISO感度という3つの要素を設定して、適正な明るさの画像が
得られるようにしなければなりません。
ところが、人間の眼は絞りに相当する「虹彩」(いわゆる「瞳」の部分)の直径を
調節するのと、網膜の感度の調整だけで様々な明るさに対応して、物を認識
できるようになっています。
多少時間分解能は変わるでしょうが、カメラのシャッタースピードの
変化とは比べものにならいくらいのものです。
虹彩の開閉は直径1mm~7mmの範囲で変化するそうです。
1mmと7mmでは面積が49倍ですから、この範囲の明るさの変化については
瞳の径を調節することにより、適正な見え方にすることができます。
でも、自然界の明るさの変化というのはもっと強烈です。
真夏のカンカン照りの昼間の明るさでも、月夜の明るさでも人間は
充分に活動することができます。
さて、ここで問題です。
「真夏のカンカン照りの昼間の明るさ」と「ほぼ真上にいる満月の明るさ」は
どのくらい違うのでしょうか?
次の3つの中から選んで下さい。
① 約4000倍
② 約4万倍
③ 約40万倍
答えは・・・
太陽がほぼ頭の真上にいて、大気の減光をほとんど受けない状態(直射法線
照度といいます)のときの明るさは、約10万lxといわれています。
(ここで「lx」(ルクス)は明るさ=「照度」を表す単位で1平方メートルあたりに
どれだけの光(可視光)が入射しているかを示します。)
一方、満月のそれは約0.25lxです。
つまり答えは③の「40万倍」が正解です。
満月の明るさでは、あまり細かい文字などを読むことはできませんが、
外を歩いたり、物の形などを把握することは容易で、満月の8分の1くらい
しか照度の得られない半月のときでも充分な明るさに思えるときもあるほど
です。
(半月が見かけの面積は満月の半分なのに明るさが8分の1になってしまう
ことに関してはいずれ機会を見て解説したいと思います。)
ここで重要なのは一番明るいときから、1番暗い状態まで明るさは百万倍も
違うのにそれなりに眼が調節して、物を見ることができるということです。
昨日書いたように、カメラの絞りに相当する虹彩の面積では1:50くらいの
調節しかできませんので、残りの2万倍の明るさは眼が感度の調節をする
ことにより調節していることになります。
明るい場所から、暗い場所に移動したときになされる調節を「暗順応」、
その逆を「明順応」といいます。
いずれにしても、明・暗順応の大部分は眼の網膜の部分が感度を変化させる
ことにより対応しているというわけです。