組立天体望遠鏡で遊ぶ3 -使いこなし編ー

さて組立天体望遠鏡シリーズ、完成しましたので、いよいよ使い始めたいと
思います。

とは言え15倍の倍率(しかも逆さまに見える倒立像)の望遠鏡を手持ちで
使うのはかなり無理があります。

思う方向に向けるのにも慣れが必要ですし、それ以前に手ブレで視野が大きく
揺れて気持ち悪くなります。

やはり三脚に取り付けて使うのが正しい使い方と言えます。

組望は初めからカメラ用三脚に取付ができるように出来ていますので、手持ちの
カメラ三脚に載せて使うと良いでしょう。

三脚に取り付ける時のコツですが、小さな三脚ですと取付ネジをきつく締めた
つもりでも、望遠鏡は長くて接眼部を持つと大きなモーメント(回転力)が働き
簡単にゆるんでしまいます。

下の写真の上のように45°くらい左に振った状態でカメラネジを締め込んで
から、望遠鏡自体を回してさらにきつく締まるようにすると緩みにくくなります。

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次に取付方向のポジションですが、下の左側のように普段カメラを載せるような
方向で望遠鏡を取り付けると、パン棒(上下を調整する棒)が邪魔になって天頂
方向に望遠鏡を向けることができません。

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写真右側のようにパン棒が対物レンズ側に延びるように三脚に取り付けると、
容易に天頂方向に望遠鏡を向けることができます。

少しイレギュラーな使い方のようにも感じますが、天体用に使うときには
望遠鏡に限らずカメラや双眼鏡でもこのポジションで三脚を使うことが多い
ので覚えておくと役に立つと思います。

さて組望用に使うカメラ三脚ですが、とりあえずカメラ三脚で安いものという
ことでケンコー製のKM-100という三脚がセットで売られていることが多いです。
(スタパでも売っています。)

ただ、この三脚安いだけあってかなりヤワなのと、雲台の出来がイマイチで
動きが渋い感じがして、微妙な調整が少し難しいです。

もう少し高級な三脚を使用すると、スー、ピタッ という感じで気持ちよく
天体の導入や追尾ができるようになります。

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写真の左がKM-100(1350円)、右がホームセンターなどで3000~5000円
くらいで買える三脚です。

右の三脚くらいになると、かなり安定した感じで見ることができますし、
かなり長く延ばせますので大人でも楽な姿勢で使うことができます。
(KM-100だといっぱいに延ばしても低くて大人は辛いです。)

組望自体が1580円ですので、それよりも何倍も高い三脚を買うのには少し
抵抗があるかも知れません。

でも、この先天体写真を撮ろうとか、双眼鏡を載せようとかということになると
絶対しっかりした三脚を一本準備しておいたほうがよいです。

天文趣味用に適した三脚の選び方は下記リンクでで紹介しています。

天文趣味用カメラ三脚の選び方1
天文趣味用カメラ三脚の選び方2

なかなか使い始められませんが、三脚の取付方ひとつでも使い勝手が大きく
変わりますので、ぜひ参考にして頂ければと思います。
次は「組望を使いこなす」(その1)です。

「望遠鏡なんかのぞけば見えるんだろう」と思っていたら大間違いです。

望遠鏡というのは「道具」の一種です。

道具であるからには使い方の作法というかコツみたいなものをちゃんと
把握して習得しないと、うまく使いこなせないと考えたほうがよいです。

小学生の子供に包丁を渡していきなり「みじん切りをして」といっても
できませんよね・・・

程度の差こそあれ望遠鏡もうまく使うのにはいくつかのコツを身につける
必要があります。

まず始めに「望遠鏡は逆さまに見える」です。

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「なぜか?」という話は横に置いておいて、とにかく望遠鏡というのは、
逆さまに見えるものだということとに慣れてください。

逆さまに見えないように(正立像に)するためには、望遠鏡の像を上下左右で
入れ換えてやる必要があるのですが、余計な部品を追加することにより、像が
ぼけやすくなりますし、高価になります。

宇宙に上下があるわけではないので、慣れてしまえば「倒立像」でもそれほど
気にならなくなりますし、困ることはほとんどないです。

次に「望遠鏡はピントが命」です。

前にも解説しましたが組望は接眼筒がネジになっていて、グルグル回すこと
によりピントを合わせるようになっています。

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∞マークが隠れないくらいのところで無限遠にピントが合うようにできています。

ただ、ピントの位置というのは人により違いますし、同じ人でもその日の
眼のコンディションによっても変わりますので、億劫がらずにこまめにピント
合わせをするクセを付けてください。

組望の場合、接眼筒が半回転くらいでもピントがぼけるのがハッキリわかります。

月などを見たときにはクレーターの見え方が大きく変わるのでハッキリ見える
場所を見つける練習が必要です。

余談ですが、私が初めて望遠鏡を買ったとき、ピントをあわせるということを
知りませんでした。

そのため望遠鏡で星を見たとき

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こんなふうに見えて「ああ、望遠鏡で星を見るとこんなに大きく見えるんだぁ」
などと思ってしまいました。

何回か見ているうちに、何かの拍子に接眼部が動いて、スーッと星が小さく
なって行くのに気付いて、初めて星が点になって見えることを知りました。
(中学2年の時のことです。)

今となっては笑い話ですが、どんなふうに見えるのか知らずに使って、
そんなものか・・で終わってしまえば望遠鏡が使えないまま一生を終わって
しまうかも知れません。

そんなけでピント合わせが重要だというお話でした。
次は「組望を使いこなす」の(その2)です。

望遠鏡の知識が少ない人に限って(特にお子さんは)望遠鏡を向ければ見たい物が
すぐに大きく見えると思っているようです。

でも、望遠鏡で見える視界というのは驚くほど狭い範囲しか見えていません。

下の図で、外側の大きな円は望遠鏡をのぞいたときに接眼レンズの中に広がる
視野の大きさ(見かけ視界といいます)と思ってください。

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仮にこれを直径100としますと、15倍では直径6.7の円、35倍では2.9の
円の範囲を100に拡大していることになります。

15倍では6.7の実視界の範囲が100の見かけ視界に拡大されて見えるという
訳です。

こうして比較すると驚くほど視界が狭いと実感できると思います。

昼間、地上の風景を見るなら、まわりの風景と見比べながら「空が見えているから
もう少し下・・」とか「あの大きな木が見えているからもっと右・・」といった
ように調節が効くのですが、夜空の星はポツンと高いところに見えているので、
なかなか狙い通りに捕まえるのは難しいものです。

組望の場合には導入をしやすくするように、ピストルの照準のような出っぱりが
鏡筒の対物側に2個と接眼側に1個付いています。

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この二つと一つの照準が3つの山に見えるようにした状態で、真ん中の山の
部分に導入したい対象を持ってくるようにすると、組望の視野内に導入できる
ようになっています。

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夜になっていきなり星で導入の練習を使用としても思うように行かない場合が
多いので、できるだけ昼間のうちに昨日解説したピント合わせの練習も含めて
練習しておくことが重要です。

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昼間、自分の見たい対象がピタリ、ピタリと導入できるようになったら、星の
導入もそれほど苦労せずにできるようになると思います。
次も「組望を使いこなす」の(その3)で、「天体の動きについて」です。

天体が地球の日周運動によりドンドン動いて行くということも、意外に初心者の
かたは忘れがちです。

倍率が高くなればなるほど望遠鏡の視界の中で星は早く動くようになります。

具体的にどのくらいの早さかといいますと・・・

例えば60倍の倍率で星を見るとすると、星の動きも60倍に加速されます。

言い換えれば24時間で地球が60回自転するのと同じ早さで星が動くことに
なります。(=24分で朝と夜が繰り返されるのと同じです。)

これを角度で表すと(天の赤道付近では)1分間に0.25度動きます。

月の見かけの大きさが0.5度ですので、1分間に月の半分ほどが動くことに
なります。

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真ん中にあった月が2分もすれば視野からはみ出してしまうということに
なります。

ちょっと目を離しているスキにせっかく導入した天体が視野から逃げてしまうと
いうことがよくあります。

15倍の望遠鏡ではそれほど慌てる必要もないですが、なるべく視野の中央で
星や月を見た方が解像度が高く気持ちよく見る事ができます。

天体がどちらの方向に進んで行くのか、どのくらいの頻度やスピードで望遠鏡を
動かしたら天体をうまく追尾できるのかといったところを身体で覚えてゆく
必要があります。

地球の自転により、見ている方向の星がどのように動くのかを理解していると
天体の動きを追尾する参考になります。

東の空では星は斜め右上に動いてゆきます。

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南の空では星はほぼ右に動いてゆきます。

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西の空では星は斜め右下に動いてゆきます。

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また、北の空では北極星を中心にして、右(東)側は上に、左(西)側は下に
北極星の上では左に星が動きます。

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冷静に考えれば当たり前なのですが、望遠鏡で星を見ているときには、
逆さまに見えていることもあり、つい忘れがちです。

望遠鏡が向いている方角を意識しながら望遠鏡の動かしかたを考えるように
するクセを付けておくと良いでしょう。
さて、そろそろ具体的にどんな星が見えるのかといった話に入りたいところ
なのですが、ここは「組望のポジショニング」(望遠鏡としての位置づけ、
組望ってどんな望遠鏡なのか)について紹介しておきたいと思います。

世の中には非常にたくさんの望遠鏡が販売されているのですが、一般のかたの
目に付きやすいホームセンターやディスカウントショップで売られている
かなりの部分はまともに見えない、おままごとレベルの製品が多いです。

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上の写真で左は組望(35倍)、中央と右側はなんちゃって望遠鏡で、月の
クレーターさえまともに見えない粗悪品です。

形はそれなりに望遠鏡のようですが・・・

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対物レンズをのぞき込むと、レンズのすぐ後ろにシングルレンズの性能の
悪さをごまかすための絞環が入っているのがわかります。

価格は3~4千円くらいなのですが、あくまでも望遠鏡のような形をした
おもちゃと考えるべき物です。

組望はこのクラスの価格でとにかく真面目に作られた望遠鏡と言えます。

ただ、組望のスペックは口径40mm、15倍(または35倍)ですので、
望遠鏡としてはかなり非力な部類のものと言えます。
(双眼鏡に毛の生えたレベルとも言えます。)

ですから(月以外は)よく見かける天体写真のように様々な天体が見えるとは
思わないほうが良いです。

ごく一部の星雲星団をのぞいては、存在自体を確認するのがやっとで、星の
集団なのか星雲なのか区別が付かないくらいの見え方しかしません。

こんな事を書くとガッカリしてしまうかも知れません。

でも、組望の値段(15倍:1882円、35倍:3078円)を考えると、これでも充分
すぎる性能だと私は思うのです。

たった(?)1882円で、
・望遠鏡の仕組みを理解できて、作るのを楽しんで
・望遠鏡の(ピント合わせや導入といった)基本的な使い方を習得することが
できて
・月のクレーターをしっかり見ることができる
・少なくとも400年前にガリレオさんが使っていた望遠鏡よりも
はるかに高性能!
・将来的に大きな望遠鏡を買ったときにサブスコープになる
(口径40mmクラスのサブスコープを完成品で購入しようとすると
1万円くらいします)
・後日書きますがデジカメや携帯で月の写真も撮れます
・様々な改造をして遊ぶこともできます ・・・ etc.

ちまたに蔓延している粗悪望遠鏡とは明らかに違う、様々な楽しみ方ができる
製品であると思います。

だからこそパッケージに現役天文学者の写真入り推薦文が載っていても
どこからもクレームが付かないのだと思います。

実際に星を見はじめる前にちょっと予防線を張るような感じなのですが、
組望でいろいろな天体を見て、ガッカリするのではなく、このクラスの
望遠鏡ではこういう見え方をするのだということを学習するつもりで見て
頂くのがよいと思います。

組望がこういう位置づけの製品なのだということを理解したうえで使えば
ガッカリすることも少ないかと思います。

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