今日も良い天気。
日毎に深まる秋が心に浸みます。
さて、少しあいだがあきましたが「望遠鏡光学」シリーズ 接眼レンズの謎。
なぜ接眼レンズは2枚以上のレンズを組み合わせているのか? の続きです。
8.接眼レンズの謎
8-5. バックフォーカスと見かけ視界
接眼レンズを単レンズにすると見かけ視界がレンズの直径で決まるので、焦点距離を短くしてもレンズ径を小さくしないようにするために、レンズを2枚組み合わせるのが有効で、組み合わせによる焦点距離の変化はある数式で計算することができるというお話をこれまでしてきました。
見かけ視界を大きく取るためにレンズを大きくするという手法は直感的に分かりやすいですが、レンズをより近くで見ることができればレンズを大きくしなくても、大きく見る(=見かけ視界を大きくする)ことができます。
レンズをのぞき込む眼の位置というのはアイポイントと呼ばれていますが、レンズごとに一番見かけ視界が広く見える場所があって、どこで見ても良いというわけではありません。
また、単レンズの場合は焦点距離でアイポイントの位置が一義的に決まってしまい、見かけ視界を30度以上にできないという制約があります。
さて、8-4節で2枚のレンズを組み合わせた場合の間隔による焦点距離の変化についてのグラフを示しましたが、合わせてバックフォーカスの変化についてもグラフに示しました。
突然、説明なしに(話の流れに出てこない)バックフォーカスという言葉が出てきて混乱された方もあるかも知れませんが、このバックフォーカスがアイポイントの位置に大きく関わってくるのです。
というのはバックフォーカス=アイポイントというわけではないのですが、バックフォーカスが小さければアイポイントも小さくなって、レンズを近くから見ることができるという比例関係は成り立ちます。
そこで、2枚のレンズを組み合わせたときに間隔を変化させることにより、焦点距離とバックフォーカスがどのように変化するかですが、
上図は前節で示した焦点距離10mmのレンズを組み合わせたときのグラフです。
ここでレンズ間隔が6mmのとき合成焦点距離は約7.1mm、バックフォーカスは約2.9mmと読み取ることができます。
単レンズの場合、焦点距離=バックフォーカスになりますので、上記の組み合わせでは、焦点距離7.1mmのバックフォーカスを単レンズの半分以下の2.9mmにすることができ、それに比例してアイポイントの位置を眼レンズに近づけることができて、結果的に見かけ視界を大きくすることができるということになります。
2枚のレンズの組み合わせで眼側のバックフォーカスが小さくなるということは、視野レンズ側のフロントフォーカスも小さくなります。
実はここにも見かけ視界がさらに広くなる秘密が隠されています。
8-6. レンズ2枚の組合わせてバックフォーカスと見かけ視界の自由度が大きくなる
バックフォーカスと見かけ視界の関係についてさらに考察を加えます。
2枚のレンズでの話に入る前に単レンズの接眼レンズで見かけ視界がどの程度になるのかについて説明しておきます。
手持ちのレンズカタログの中から焦点距離が20mmの接眼レンズとして使えそうなレンズで光路図を書いてみました。
(焦点距離:20mm、径:15mm、中心厚:4.2mm、フチ厚:1.0mmのレンズです。
また、対物レンズの口径比はF5程度を想定しています。)
上図ではレンズ径のわりにかなり分厚いものを使用していますが、これでも見かけ視界(2×θ1)は30度程度です。
焦点距離が変わっても 焦点像:レンズ:アイポイント の位置関係は相似になるので見かけ視界は単レンズである限りそれほど大きく変わりません。
次に焦点距離が25mmのレンズを2枚使って20mm接眼レンズを作ることを考えます。
前回紹介した図で25mmのレンズの合成焦点距離とバックフォーカス求めると、焦点距離20mmにするにはレンズ間隔18.2mmにすれば良く、このときバックフォーカスは5mmになります。
手持ちのレンズカタログの中から焦点距離:25mm、径:18mm、中心厚:4.6mm、
フチ厚:1.0mmを選び光路図を書いてみました。
バックフォーカスが短くなることから、焦点像と視野レンズの距離がたいへん近くなります。(それだけで見かけ視界が広がります。)
また、単レンズのときより大きなレンズが使えること、眼レンズで視野レンズを拡大してみる形になることなどから、単レンズのときよりも大幅に見かけ視界を大きくすることができているというわけです。
さらっと書きましたが、ここがキモで、接眼レンズを2枚のレンズで作る理由のもっとも大きな理由です。
見かけ視界をさらに広くするために、レンズの枚数を増やすなど様々な手法があって、今日では本当にいろいろなタイプの接眼レンズが生まれています。
どんな形式の接眼レンズを使ったらよいのか訳が分からなくて困っている人も多いかも知れません・・・
その辺についてはいずれ機会を見つけてお話できればと思っています・・・