1-4. 天文用には7×50

昔から「天文用には7×50」(口径50mm/7倍)という伝説があります。

双眼鏡の仕様や性能の判断基準などについては後日詳しく説明するのでここでは詳しい説明を省略しますが、この伝説が生まれた背景には、「瞳径(ひとみけい)7mm」で手持ちで使える最大級の口径「50mm」という仕様であるためです。

8×56、9×63、11×70という仕様の双眼鏡もありますがあまり一般的でないですし、大きくなればなるほど気楽に首からぶら下げて持ち歩く事が難しくなります。

瞳径というのは双眼鏡の接眼レンズから射出する光の束の太さで、一般には大きいほど視界が明るく見え、暗い場所でも良く見えるということになっています。

でも大きければ大きいほどよい言うものでもなく、人間の眼の瞳孔径より大きいと光が無駄になってしまいます。

人間の眼は完全に暗順応すると最大7mmまで瞳孔が開くので、それに合わせた仕様こそが暗い天体を見るのにはベストであるという理論です。

でも、瞳孔が7mmまで開くのかというと、実はこれにはかなりたくさんの賛否両論があります。

加齢により瞳孔の最大径が小さくくなって行く傾向があって、50代以上になると年をとるに従い6mm、5mm、4mmと小さくなって行くというデータもあります。

ただし、このデータは個人差がかなり大きいようで一概に高齢だから最大瞳孔径が小さいとは言えないようで、60代でも7mmある方もいれば30代でも5mmしか開かない方もあるようです。(傾向としては加齢により小さくなるようですが・・・・。)

また月明かり程度の明るさでも最大径まで開かないことが多く、明順応は瞬時、暗順応は緩やかに進むことを考えると、瞳径7mmの性能が発揮できるチャンスが意外に少ないらしいということが分かって来ます。

私の経験談をお話しさせて頂くと、20才そこそこの若い頃に、ニコンの7×50(トロピカル)を所有していました。

当時の国産としては天文用として「最高峰」と謳われた機種です。

でもこの双眼鏡で見て「楽しい」とか「凄い」と思えたことはほとんどありませんでした。

とにかく明るすぎて、都会ではもちろん天の川がバッチリが見えるような環境でも、背景がグレーに見えてしまい、コントラストの低い見えかたかしないのです。

同時期にビクセン製の16×70(瞳径4.3mm)というかなり大型(でも重量と値段はほとんど同じ)の機種を所有していたのですが、星に関していえばこちらの方が圧倒的に良く見え、凄いとか楽しいと思えるものでした。

もっと真っ暗闇になる場所で使えばもう少し7×50の良さが分かったかも知れないのですが、結局数年後には手放してしまいました。

以来、私の中では「天文用には7×50」というのは都市伝説と化していて、天文用にはコントラストがハッキリして微光星や星雲の見えやすい瞳径4~5mmがベストとお奨めするようになりました。

今夜は久々に天の川がばっちりの天候でしたので、久々に7×50(瞳径7mm)と8.5×45(瞳径5.3mm)の双眼鏡を観察会のあとに見比べてみました。

好みの問題はあるのかも知れませんが、私はやはり8.5×45の方が楽しめるように思います。

8.5×45は倍率が少し高いのですが見かけ視界が広く、実視界は7×50とほとんど変わりがありません。

口径は小さいのですが、コントラストが高いので最微光星がほとんど変わらず、星雲などの見え方もクッキリ見えるように感じます。

倍率が高い分視界が広いので、同じものを見ても迫力があるように感じました。

スタパくらいの条件の空でもそんな状況ですので、ほとんどの状況で真価を発揮することができない瞳径7mmの双眼鏡に固執する必要はないと思います。(詳しくは後日、機種の選び方について解説します。)