超入門 望遠鏡光学 (その9) 倍率を考える 2

台風一過。

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久々に終日良い天候でした。

そして本当に久々に月の写真を撮りました。

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台風一過で気流は最悪ですが1ヶ月半ぶりくらいの撮影となりました。

この台風で天候のパターンが変わってくれると良いのですが・・・・

さて「望遠鏡光学」シリーズが続きます。

6.倍率について考える

6-3. 倍率と分解能

前節では望遠鏡で倍率を上げすぎると像が暗くなるというお話をしました。

本節では倍率を上げすぎると「像がぼける」ということについて解説します。

普段、あまり気にしませんが、パソコンやテレビを見ているときに、もっと細かく見てみたいと思って、ドンドン画面に近づいて(さらには虫眼鏡で)見てもある一定以上に細かいところは見えなくなり、赤・緑・青の光の点にしか見えなくなってしまいます。

テレビやパソコン画面の解像度が細かい光の点の明暗で表現されているからです。

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同様に新聞の写真を虫眼鏡で見ても細かい点の集合に見えるだけで、ある細かさ以下の物を分解してみることができなくなります。

新聞の写真に知人らしき人が写っているときに虫眼鏡で見てもそれほどハッキリ見えてこなくて歯がゆい思いをしたりします。

このように私たちの身の回りにある映像や画像には「解像度」といわれる、どこまで細かいところが見えるのかといった指標がついて回り、細かいところまで見えるのに越したことはないのですが、通常の使用で気にならないレベルの「解像度」がいろいろあるというわけです。

望遠鏡も解像度が高いほど細かいところが見えますし、倍率を高くしてもより細かいところが見えてくるとうメリットがありますので、できるだけ解像度の高い物がよいと言えます。

ところで、望遠鏡の解像度が何で決まるかというと、理論的には対物レンズの口径で決まることになっています。

これは口径が大きいほど光の回折による像の乱れが少なくなるという、物理的な現象であるとも言えます。

望遠鏡の場合には解像度を「分解能」という言葉で定義することが多いです。

分解能というのは、望遠鏡ですので非常に接近した星がどこまで分離して見えるかという値で、通常は「ドーズの限界」と呼ばれる実験式で求められる値を用います。

ドーズの限界による分解能は下式で求めることができます。

分解能( ″) = 115.8″÷ 口径(mm) ・・・(式1)

口径50mmでは2.3″、100mmでは1.16″という値が簡単に求められます。
(ここで1″は1度の1/3600の角度です。)

昔から気になっているのですが、どんなに出来の悪い粗悪品でも口径50mmの望遠鏡のカタログスペックは「分解能:2.3″」と計算通りの数値が書いてあります。

どうも望遠鏡業界では実際に見えようと見えまいと計算式通りの分解能を表示して良いことになっているのか? と思えるほどです。
(襟をただして欲しいところです・・・)

話を戻して・・・

ドーズの限界の分解能というのは、6等星前後の明るさのほぼ等しい近接二重星をたくさん用いて様々な望遠鏡で確認して求められたもので、物理的な回折の理論から推察される限界値に比較的近いため一般的に用いられています。

物理の理論値ですと光の波長により値が変わるため、一般式にしづらいためドーズの式の方が使いよいということになっているようです。
(この辺のお話はまたいつか詳しく説明したいと思っています。)

さて、この分解能が活かせる倍率というのはどのくらいなのでしょうか?

人間の眼は通常視力(視力1.0、矯正視力でもOK)であれば、1′(1度の1/60)の分解能があります。

倍率を上げて望遠鏡の分解能が1′以上の見かけ角度になるようにしてあげれば望遠鏡の分解能が活かせることになります。

例えば116mmの口径の望遠鏡があったとします。

この望遠鏡の分解能は(式1)に代入して

115.8″÷ 11.6mm ≒ 1″= 1/60′

となります。

ですから60倍にして見れば1″が1′に見えるので望遠鏡の性能がフルに活かせることになります。

逆に言えばこれより倍率を高くしても、それ以上に細かい物は見えてこないと考えることもできます。

実際には視力ギリギリのところで見るのは辛いので、その倍くらいの倍率(ここでは120倍)が有効に望遠鏡の性能を活かせる最大倍率(有効最大倍率)ということになります。

口径116mmの望遠鏡で120倍ですから、通常では切りの良い(口径mm数)倍というのが有効最大倍率として使われます。
(つまり口径50mmなら50倍、100mmなら100倍です。)

ただ、月や惑星などの明るい天体を見る場合には、これよりさらに倍くらいの倍率で見たほうが模様が楽に見える場合もあります。

このため、(口径mm数)×2倍 というのが限界最大倍率として使われることが多いです。(こちらは口径50mmなら100倍、100mmなら200倍です。)

まあ、できるだけ倍率を高く設定して売ったほうが初心者にはよく売れるというメーカー側の思惑があるのかも知れませんが・・・

さて、このようにして望遠鏡の分解能を活かせる倍率が分かると、昨日の倍率を上げると暗くなるということと合わせて、50mmの望遠鏡に300倍などと言う倍率がいかに無謀であるかがおわかりいただけたと思います。

それでも自分の望遠鏡が限界最大倍率を越えた倍率を出したとき、どんなふうに見えるのかは気になるところですよね・・・

というわけで、次節では限界最大倍率以上の倍率に意味があるのかということを考えてみたいと思います。

(続く・・)

スタパオーナー について

たくさんのかたに星空の美しさ、楽しさを知って頂きたくて、天体観測のできるペンションを開業しました。
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