7×50を奨めないわけ 再び その3(完)

今日もまあまあの行楽日和。

少し雲は多目でしたが快適な一日でした。

さて、星見用の双眼鏡として7×50を奨めないわけの続きです。

昨日は7×50が奨められない理由の一つの、中途半端な見かけ視界のため暗順応リングが発生しやすい件について眼の構造から見た生理学的考察をしました。

「瞳径が大きくて視界がとても明るくいので微光星とのコントラストが低くて見えにくい」
という二つ目の現象について説明します。

瞳径(射出瞳径)についての詳しい説明は省略しますが、7×50の瞳径は約7mm です。

この「7mm」というのがとても重要なのだということになっていました。

これは私たちの眼の光を取り込む部分(瞳)の直径が7mmであるため、もっとも効率よく双眼鏡からの光を眼に取り込むことができると考えられるからです。

双眼鏡の瞳径が7mmよりも大きければ、双眼鏡からの出力の一部が眼に入らず無駄が生じます。

また7mmよりも小さければ視野は暗くなり、暗い場所での使用に適さなくなるという考えから瞳径7mmこそ暗い天体を見るのに最適という神話が生まれた要因です。

第二次世界大戦の頃、まだ目視によって索敵を行っていたときには、真っ暗な洋上や灯火管制の敷かれた戦地において、1秒でも早く敵を見つけなければならないような状況では7×50など瞳径7mmの双眼鏡は本当に活躍したのだろうと思います。

そんな所から暗いところで使う双眼鏡は7×50に限るというのが常識になったのでしょう。

でも、これって本当に正しいのでしょうか?

かつて(かなり昔の話ですが)「RFT」(リチェスト フィールド テレスコープ=視野内に最もたくさんの星が見える望遠鏡)が流行ったことがあります。

実はこのRFTは瞳径が7mmになるようにした望遠鏡のことでした。(厳密には実視界と星の密度、極限等級まで加味した上で口径まで指定した物もありましたが・・)

通常の望遠鏡です瞳径を7mmにするためには対物レンズの焦点距離をかなり短くしないと、そんな低倍率にできる接眼レンズがてに入らないので、やたらと短焦点の望遠鏡がもてはやされる時期があったのです。(今にして思えば、それまで望遠鏡は細長いものというイメージであったのがやたらと短い鏡筒が増えたのはこの頃からだったかも知れません。)

確かに瞳径が7mmとなるその望遠鏡の有効最低倍率では(接眼レンズの見かけ視界が同じと仮定すると)最も視界が広くなるのでたくさんの星が視野内に見えることになります。

でも、いつの間にかRFT自体があまり流行らなくなりいいつの間にか死語に近いものになってしまったように思います。

流行らなくなってしまった原因として考えられるのは、
・瞳径が7mmとなる有効最低倍率では視界が明るくコントラストの低い寝ぼけた見え方となる。
・当時の接眼レンズ(31.7mm径または36.4mmネジ)では広い見かけ視界が得られなかった。
・すでに国内では光害が深刻になっていて、理論上の見え方よりもさらにコントラストの低い見え方になることがほとんどで、瞳が7mmまで開く環境があまりない

というわけで、RFTだからたくさん星が見えると思って覗いても、ちっとも面白くなかった・・・ということです。

光害が全く無く、星の有無でしか地上と空を区別できないような環境、または上の写真のように星が見えるかどうかで雲の有無を見分けるような環境であれば、楽しいのでしょうが、下の写真のように星が綺麗に見えても雲が地上光を反射して空に浮かんでいるのを認識できるような環境では瞳径7mmの望遠鏡はあまり楽しくない機材だったのです。

経験的には瞳径7mmの望遠鏡ではその望遠鏡の極限等級の微光星を見ることはできず、瞳径が2~3mmくらいになるように倍率をあげると、本来の極限等級が見えるようになります。

あまり倍率が低いとバックグランドが暗く締まらずコントラストが低くて微光星を検出しにくいためです。

双眼鏡の場合は双眼視のため単眼のときよりもコントラストを高く感じることが出来るので4~5mmの瞳径でもそこそこ微光星を検出することが出来るようになります。

双眼鏡の場合プリズムの性能によって実視界の限界が決まってしまうので、低倍率では見かけ視界の広い接眼レンズを使用すると周辺像がケラレてしまうので、低倍率のわりに広い範囲を見ることができません。

なので(前回書かなかったのですが)少し倍率を上げても広視界の接眼レンズを使用すれば低倍率の双眼鏡と同等の実視界を得られる物が作れます。(あまり視界を広げると周辺像が悪化し星がぼやけるのでどこまで広げるかはメーカーの良心によりますが・・・)

見かけ視界が広いほうが暗順応リングの影響を受けにくくなりますし、瞳径が(7mmよりも)小さい方が視野外の暗部と視野内の輝度の差が小さくなり暗順応リングが薄くなります。

以上のことから私がお奨めする星見用双眼鏡のベストスペックは

口径:40~42mm
倍率:8倍
実視界:7~7.5度

取り回しのことを考えると上のようなダハタイプがベターで、視野周辺の星像の劣化が出来るだけ小さなものを選ぶことになります。

スタパオーナー について

たくさんのかたに星空の美しさ、楽しさを知って頂きたくて、天体観測のできるペンションを開業しました。
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