天体望遠鏡入門講座 第三章 3-1

今日はときおり青空も見えましたが曇りがちの一日でした。

さて望遠鏡入門講座、今日からは第三章、接眼レンズについて解説して行きます。

第三章 接眼レンズ

3-1. 接眼レンズの基本性能

接眼レンズは望遠鏡で星や景色を観察するうえで必須ともいえる部品です。

どんなに性能の良い主鏡を用いた鏡筒を使っても接眼レンズの性能が良くなければ見えるはずのものも見えなくなってしまいます。

最近は接眼レンズもいろいろな性能(用途・目的・見え味など)によって、様々な種類の製品が販売されています。

できるだけ性能の良い接眼レンズを使いたいのは山々なのですが、一つの鏡筒に対し所望の倍率ごとに接眼レンズが必要ですし、高級なものになると一個で高級な望遠鏡が変えてしまうほどの商品もあるので悩ましいところです。

ここでは接眼レンズの性能を示す仕様について解説します。

1)焦点距離

倍率については1-3-3で解説しましたが、

倍率 = 対物レンズの焦点距離 ÷ 接眼レンズの焦点距離

という計算式で求めることができます。

いろいろな倍率を得るためには様々な焦点距離の接眼レンズが販売されています。

 

焦点距離の小さな接眼レンズであるほど高倍率が得られるのですが、対物レンズの口径に見合った倍率以上になるような組み合わせを使っても暗くなるうえにぼやけるばかりで、細かいところが見えるわけではありません。

通常は低倍率(口径mm数の2~4分の1)、中倍率(口径mm数前後)、高倍率(口径mm数の2倍前後)を準備しておくと良いです。

2)見かけ視界

見かけ視界というのは接眼レンズをのぞき込んだときに見える範囲の見張り角を角度で示したものです。

同じ焦点距離の接眼レンズで倍率が等しくても、見かけ視界が大きければより広い範囲を観ることができます。

上は同じ倍率で見かけ視界が異なる例です。

見かけ視界が大きな接眼レンズほど一度に観察できる範囲が広いので快適に観察ができます。

古典的な接眼レンズでは40~50°が一般的で60°もあると超広角といわれたものですが、最近では100°以上の製品もあって覗き込んだときに視野の端が見えないほど広い視界の製品も流通しています。

できるだけ見かけ視界の広い接眼レンズを用いたいところなのですが、広角で性能の良いものはもの凄く高価なことや、使用する鏡筒との相性もあるので注意が必要です。

「広角、命」という方も多いのですが、個人的には60~70°の製品に覗きやすさと性能・コストのバランスが良いものが多いので愛用しています。

3)アイレリーフ

接眼レンズを覗き込むときに接眼レンズと眼の位置関係はとても重要で、眼と望遠鏡の光軸中心がピッタリ合っていることはもちろん、接眼レンズごとにレンズ後端からの眼の距離がわりと正確に設定されています。

正確な位置に眼を置くことができれば視野全体を見ることができます。

しかし設定された位置から少しでも離れたり近かったりすると視野の一部分しか見えなくなることがほとんどです。

この接眼レンズ後端から眼までの設定された距離を「アイレリーフ」と呼びます。

一般に焦点距離の短い接眼レンズほどアイレリーフが短くなる傾向があります。(製品シリーズにより全ての焦点距離でアイレリーフを統一しているものもあります。)

アイレリーフが15mmより短いとメガネを使用して覗くと視野全体を一度に見渡すことができなくなります。

このためメガネを常用される方が接眼レンズを購入する場合は15~20mm以上のアイレリーフを持つ持つものを選ぶ方が良いです。

また接眼レンズの性能であまり語られることが多くないのですが、アイレリーフが充分なものでも光軸(=レンズ中心)から眼の位置がずれると「ブラックアウト」といって、視野の一部または全部が暗くなる現象が起こります。

最近の超広角を売りにした接眼レンズは特にこの傾向が強く、レンズを覗く人に厳しく眼の位置を調整することを強いるものが多いです。

前後方向のアイレリーフに加え、上下左右方向の適正位置をアイポイントと言いますが、観察会などでたくさんの人に望遠鏡を見て頂く場合は、できるだけこのアイポイントの寛容な接眼レンズを選ぶ配慮も必要です。

4)視野の平坦さと像のゆがみ

「視野の平坦さ」と「像のゆがみ」についてもカタログスペックでは判らないですし、使用する鏡筒との相性もあるのですが解説しておきます。

望遠鏡というのはどちらかというと視野中心の解像度を重視する傾向が強く、広い範囲を見ることが得意でない場合が多いです。(安価で単純な構成の鏡筒ほどその傾向が強いです。)

このため視野中心は良く見えるけれど、視野周辺部はボケボケになってしまうことも多いのです。


(拡大すると視野周辺の星が三角になっています。)

広角を謳う安価な接眼レンズは特にその傾向が強く、せっかく広角で広い範囲が見えているわりには(暗い星がボケて見えなくなり)あまりたくさん星が見えている気がしないということが起こります。

視野周辺までピシッとピントの合う接眼レンズを選びたいものです。

「像のゆがみ」があるとタイル状に直交する線を見た時、樽型や糸巻き型に見えるような現象です。

樽型に歪むのが「正の歪曲収差」、糸巻き型に歪むのが「負の歪曲収差」といいます。

固定して使用する望遠鏡ではあまり気にならないことも多いのですが、地上の観察する望遠鏡や、双眼鏡などで視野を移動しながら観察するときにこの収差があると、視野のゆがみが気になることが多いです。

あまりひどい歪曲収差があるものは避けるのが無難です。

スタパオーナー について

たくさんのかたに星空の美しさ、楽しさを知って頂きたくて、天体観測のできるペンションを開業しました。
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天体望遠鏡入門講座 第三章 3-1 への3件のフィードバック

  1. 小澤利晴 のコメント:

    オーナー様、広角アイピースに関する考え方、私も全く同感です。
    見かけ視野は私個人としても60度もあれば十分で、普段は主に惑星の観望ということもあり、40〜50度のPLやOrがほとんどで、全く不足は感じません。

    超広角は、おっしゃるように一本で8cmのアポ屈折鏡筒が買えるような「超高額」のものはおそらく性能も「超」がつくほどすごいのかもしれませんし、そういった製品を求める方もいらっしゃるのは当然理解できますが、あくまでも私個人はアイピース1本の値段として「ものには限度というものがある」と言う感覚が働き、どうしても購買意欲が湧きません。

    あと、最近のアイピースは鏡筒の短焦点化に伴ってか、あるいはアイレリーフを稼ぐためなのか、超広角でなくてもスマイスレンズやら何やらでやたらとレンズの枚数が増えたものが多くなってきたと感じます。

    眼視に適したある程度長い焦点距離を持った対物の鏡筒では、像質と言う点でやはり昔ながらのアッベやプルーセルが最も適しているのかなと、個人的には思ってしまいます。

  2. スタパオーナー のコメント:

    小澤さま
    惑星、重星などの観察、観測には古典的接眼レンズが安心して使えて良いですね。
    ヌケが良いですし、アイポイントの位置が寛容でブラックアウトしづらいのが好きです。
    広角になるほど星雲星団向けには威力を発揮しますが、中にはあまり使いたいと思えないものも多いです。
    超広角タイプは相当高価格のものでもアイポイントの位置がもの凄くシビアーで使用する人に非常に高い覗くスキルを要求します。
    覗いた時の窓から首を出したときのような没入感は素晴らしいのですが、眼をキョロキョロさせるとブラックアウトしまくりになることが多く疲れます。
    いずれにしてもメガネが無いと乱視がひどく良く見えない私としては、覗きやすい接眼レンズが何よりだと最近は思うようになっています。

  3. 小澤利晴 のコメント:

    オーナー様、
    そうですね。たしかにブラックアウトは大きな欠点です。疲れるのと同時に非常にストレスになります。アイレリーフを必要以上に長く確保するような設計のアイピースに多いように思います。

    おっしゃる通り、超広角で比較的安価なものでは周辺像が大きく歪むものが多いですね。見かけ視野80度以上のものはアイピースの中で意識的に目をぐるぐる回さないと全視野が見渡せないです。
    この「意識的に見渡さないといけない」ところがポイントで、私としてはパッと見て「無意識に」見渡せる範囲が実用的な見かけ視野だと思います。この範囲までならまあ周辺像もそれほど悪化しないのではないか、広視野が有利になる月面の観望でも十分に楽しめる範囲なのではと、個人的には思います。

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