超々入門 天体望遠鏡光学 倍率について考える - その3 -

スタパの周辺では一歩森に入って深呼吸をすると、肺の中まで緑になって
しまいそうなほど緑が濃くなってきました・・・

さて、昨日の続きです。

前回は望遠鏡で倍率を上げすぎると像が暗くなるというお話をしました。

今日は倍率を上げすぎると「像がぼける」ということについて解説します。

普段、あまり気にしませんが、パソコンやテレビを見ているときに、もっと
細かく見てみたいと思って、ドンドン画面に近づいて(さらには虫眼鏡で)
見てもある一定以上に細かいところは見えなくなり、赤・緑・青の光の点に
しか見えなくなってしまいます。

テレビやパソコン画面の解像度が細かい光の点の明暗で表現されているからです。

同様に新聞の写真を虫眼鏡で見ても細かい点の集合に見えるだけで、ある細かさ
以下の物を分解してみることができなくなります。

新聞の写真に知人らしき人が写っているときに虫眼鏡で見てもそれほどハッキリ
見えてこなくて歯がゆい思いをしたりします。

このように私たちの身の回りにある映像や画像には「解像度」といわれる、
どこまで細かいところが見えるのかといった指標がついて回り、細かいと
ころまで見えるのに越したことはないのですが、通常の使用で気にならない
レベルの「解像度」がいろいろあるというわけです。

望遠鏡も解像度が高いほど細かいところが見えますし、倍率を高くしても
より細かいところが見えてくるとうメリットがありますので、できるだけ
解像度の高い物がよいと言えます。

ところで、望遠鏡の解像度が何で決まるかというと、理論的には対物レンズの
口径で決まることになっています。

これは口径が大きいほど光の回折による像の乱れが少なくなるという、物理的な
現象であるとも言えます。

望遠鏡の場合には解像度を「分解能」という言葉で定義することが多いです。

分解能というのは、望遠鏡ですので非常に接近した星がどこまで分離して
見えるかという値で、通常は「ドーズの限界」と呼ばれる実験式で求められる
値を用います。

ドーズの限界による分解能は下式で求めることができます。

 分解能( ″) = 115.8″÷ 口径(mm) ・・・(式1)
 
口径50mmでは2.3″、100mmでは1.16″という値が簡単に求められます。
(ここで1″は1度の1/3600の角度です。)

昔から気になっているのですが、どんなに出来の悪い粗悪品でも口径50mmの
望遠鏡のカタログスペックは「分解能:2.3″」と計算通りの数値が書いてあり
ます。

どうも望遠鏡業界では実際に見えようと見えまいと計算式通りの分解能を
表示して良いことになっているのか? と思えるほどです。
(襟をただして欲しいところです・・・)

話を戻して・・・

ドーズの限界の分解能というのは、6等星前後の明るさのほぼ等しい近接二重星
をたくさん用いて様々な望遠鏡で確認して求められたもので、物理的な回折の
理論から推察される限界値に比較的近いため一般的に用いられています。

物理の理論値ですと光の波長により値が変わるため、一般式にしづらいため
ドーズの式の方が使いよいということになっているようです。
(この辺のお話はまたいつか詳しく説明したいと思っています。)

さて、この分解能が活かせる倍率というのはどのくらいなのでしょうか?

人間の眼は通常視力(視力1.0、矯正視力でもOK)であれば、1′(1度の1/60)
の分解能があります。

倍率を上げて望遠鏡の分解能が1′以上の見かけ角度になるようにしてあげれば
望遠鏡の分解能が活かせることになります。

例えば116mmの口径の望遠鏡があったとします。

この望遠鏡の分解能は(式1)に代入して

 115.8″÷ 11.6mm ≒ 1″= 1/60′

となります。

ですから60倍にして見れば1″が1′に見えるので望遠鏡の性能がフルに
活かせることになります。

逆に言えばこれより倍率を高くしても、それ以上に細かい物は見えてこない
と考えることもできます。

実際には視力ギリギリのところで見るのは辛いので、その倍くらいの倍率
(ここでは120倍)が有効に望遠鏡の性能を活かせる最大倍率(有効最大倍率)
ということになります。

口径116mmの望遠鏡で120倍ですから、通常では切りの良い(口径mm数)倍と
いうのが有効最大倍率として使われます。
(つまり口径50mmなら50倍、100mmなら100倍です。)

ただ、月や惑星などの明るい天体を見る場合には、これよりさらに倍くらいの
倍率で見たほうが模様が楽に見える場合もあります。

このため、(口径mm数)×2倍 というのが限界最大倍率として使われることが
多いです。(こちらは口径50mmなら100倍、100mmなら200倍です。)

まあ、できるだけ倍率を高く設定して売ったほうが初心者にはよく売れるという
メーカー側の思惑があるのかも知れませんが・・・

さて、このようにして望遠鏡の分解能を活かせる倍率が分かると、昨日の
倍率を上げると暗くなるということと合わせて、50mmの望遠鏡に300倍
などと言う倍率がいかに無謀であるかがおわかりいただけたと思います。

それでも自分の望遠鏡が限界最大倍率を越えた倍率を出したとき、どんなふうに
見えるのかは気になるところですよね・・・

というわけで、次回は限界最大倍率以上の倍率に意味があるのかということを
考えてみたいと思います。

(続く・・)

スタパオーナー について

たくさんのかたに星空の美しさ、楽しさを知って頂きたくて、天体観測のできるペンションを開業しました。
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