今日は久々に青空の見える天候。
久々の晴天でも秋深し・・という感じで、赤とんぼたちはだいぶ元気が無いです。
さて「望遠鏡光学」シリーズです。
5.アクロマートって何さ
5-2. 光の屈折と分散
さて、アクロマート式レンズというのは、どのような仕組みで色収差を軽減するようになっているのでしょうか。
アクロマート式の具体的な説明に入る前に、プリズムのところでちらりとお話したガラスの光の「分散」について少し説明をしておきます。
少し回り道のようですが、ニュートンがアクロマート式レンズを発明できなかった理由には、この「分散」についての理解が足りなかったからだと考えられており、アクロマートを説明するときの重要なファクターだと思います。
分散とは光の色によって屈折される度合いの違いを表すもので、分散が大きいとプリズムでは赤から紫までの分解された光の幅が大きくなり、レンズでは赤の光の焦点位置と青の焦点位置が大きく違います。
色による分散が全くないガラスがあれば色収差のないレンズができてよいのですが、残念ながら、そうした材質はありません。
ED(Extra low Dispersion:超低分散)ガラスと呼ばれる高級な光学レンズでも単独では色収差を無くすことができません。(EDガラスを使えば色収差だけでなく他の収差も軽減しやすくなることは確かなようですが・・・)
それではどのようにすれば、この分散を打ち消すことができるのでしょうか?
ヒントとして、プリズムの解説の中で二つのプリズムをさかさまにつなげると、一度分光された光がまたもどり、ただのガラスの板を通してみるようにすっきりと向こうが見えるというお話がとても大きな意味を持ちます。
ニュートンさんが2枚のレンズを使って色収差の少ないレンズを作ることを思いつかなかったのは、ガラスの材質により屈折率が違うことまでは気づいていたのですが、分散が違うというところに気づいていなかったからだと言われています。
下の図はプリズムで屈折率と分散の大小による、光の分散と進み具合を示しています。
(分散の仕方や屈折の仕方がかなり微妙なのでよく見比べて下さい。)
アクロマートの仕組みとしては前回の冒頭で書いたように屈折率の違う2枚のレンズ(凸レンズと凹レンズ)を組み合わせたものです。
この図の上のほうを拡大して見ると
いかがでしょう? プリズムを2個逆さまに組合わせたときの形に似ていると思いませんか?
さあ、ここまで書くと察しの良いかたはだいたいの答えが分かってきたのではないかと思います。
5-4. アクロマート式レンズの基本原理
少し説明が回りくどくなってしまいましたが、種明かしは意外に簡単です。
下の図で、凸レンズは赤の光がレンズから遠くに焦点を結び、青の光はレンズよりに焦点を結んでいます。
また、凹レンズは赤の光より青の光の方がレンズの外側に拡散されます。
ここで、
凸レンズ:分散の小さいガラス
凹レンズ:分散の大きなガラス
凸レンズの焦点距離 > 凹レンズの焦点距離(凹・凸による焦点の正負は無視)
という条件でうまくレンズの焦点距離を調整すると・・・・
上の図のようにお互いの色収差が打ち消しあって、同じ場所に焦点を結ばせることが可能になります。
以上がアクロマート式レンズの基本的な原理です。
このように色収差を打ち消しあうことを「色消し」といい、このようなレンズを「色消しレンズ」ともいいます。
(色が見えなくなって白黒に見えると勘違いする人が時たまいます・・・)
アクロマート式レンズの実際の設計に当たっては
・各レンズの焦点距離と合成焦点距離
・レンズの面(4面全て)の曲率
・各レンズの屈折率と分散
といった様々なファクターを加味して検討する必要があります。
使用する材料や、焦点距離を決めて、作りやすい曲率の範囲で組み合わせて設計するというのが一般的なようです。
まあ、普通の人はレンズの設計はしないでしょうからこの辺までが分かっていれば充分かな・・という気がします。
ここまででは説明していないのですが、通常の光学ガラスでこのような設計をした場合、色が完全に打ち消しあえるのは原理上ふたつの色だけです。
例えば赤と青で焦点を一致させた場合、中間の緑や青の外側にある紫は少し焦点がずれます。
このため眼視用の対物レンズでは比較的眼の感度が高い、濃オレンジと青緑の焦点が一致するように設計するのが一般的です。
紫の光に対しては眼の感度が低いので、多少ピンぼけでもあまり気になりにくいというわけです。
写真用の場合には紫まで感度のあるフィルムが多いことから、青紫とオレンジが一致するように作られていることが多いようです。
実はこのようにふたつの色について色消しができるように設計されたレンズのことを定義上は「アクロマート」と呼ぶことになっています。
また、3色について色消しができるようにしたレンズを「アポクロマート」と呼ぶことになっていますが、最近では3色以上でもアポクロマートと呼んだり、メーカーによってはスーパーアポクロマートと呼んだりして、少し定義がズレてきているようです。
少し話しがそれてしまいましたが、以上で「アクロマート」についての解説は終わりです。
分かりましたかねぇ~・・・(ちょっと心配・・・)
本章の参考文献
永田信一著「レンズがわかる本」日本実業出版社
吉田正太郎著「屈折望遠鏡光学入門」誠文堂新光社