超入門 望遠鏡光学 (その13) 倍率を考える 5

今日も雲の多い一日。

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夜になって少し月が見えていますが・・・

さて「望遠鏡光学」シリーズ、今日も倍率についての続きです。

6.倍率について考える5

6-6. 倍率は視力によって変わる

本節は倍率は視力によって変わるという話です。

望遠鏡を使い慣れると、人によってピントの位置が微妙に違うことに気付きます。

同じ自分でも、その日の眼のコンディションによって微妙に変化することがあるほどです。

なぜこのようなことか起こるのかというと・・・

前節の解説の中で、倍率の計算は

「無限遠の対象を、無限遠を見るように調整された眼で見たとき、
対物レンズの焦点距離 ÷ 接眼レンズの焦点距離 で倍率が計算できる」

という条件がついていました。

このなかで実は「無限遠を見るように調整された眼」というのがかなりのクセ者なのです。
健常眼(けんじょうがん:ここでは裸眼で無限遠から30cm以下の近点まで正常にピント調整ができる眼と考えます。)の人でも望遠鏡をのぞくときは、少し緊張してもっと近くを見るように眼を調整してしまうことが分かっていいます。

通常これを器械近視と呼んでいますが、望遠鏡を覗くとき多くの人が近視眼で見てしまうことが多いのです。

さて、今さらという感もありますが、健常眼と近視眼の違いについて簡単に説明をしておきます。

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上図で左は健常眼で、無限遠からの光(平行光線)が網膜上に焦点を結びます。

図の中央は近視眼で、無限遠からの光が、眼球の変形、水晶体(レンズ)の調整不良などの原因により網膜の手前で焦点を結び、網膜上ではピンぼけの状態になります。

これを補正するためには、凹レンズ(近視用メガネ)を目の前に置いて、少し遠いところ(網膜上)に焦点を結ぶようにすればよいわけです。

ここで少し見かたを変えて・・・

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近視眼というのは、健常眼の前に凸レンズを置いたのと同じと考えることができます。

健常眼の人でも、目の前に凸レンズを置くと、遠くの景色がぼやけ、近くがやたらとよく見えるようになり、近視の人と同じ見え方を体験できるというわけです。

少し説明が回りくどくて済みませんが・・・

ここで、健常眼の人と、近視眼(=健常眼+凸レンズ)の人が同じ望遠鏡をのぞいたときにどのようなことが起こるか・・・

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この図で分かるように、眼と望遠鏡全体で光学系を考えると、近視眼では健常眼に凸レンズの1枚加わった接眼レンズを使っているのと同じことが起こます。

接眼レンズに別の凸レンズが1枚加われば、接眼レンズの焦点距離は、より短くなって、ピントは対物レンズよりにズレて、倍率も上がるという現象が起こるのです。

それでは、遠視(老眼)の人が望遠鏡をのぞくとどうなるでしょうか?

これは容易に想像がつくと思いますが、
・ピント位置が外にズレ
・倍率が低くなる
という結果になります。

倍率がずれる範囲は、接眼レンズの焦点距離や倍率により変化するので一概には言えませんが、近視の人と遠視の人とでは10%前後は違うことが当たり前に起こります。(計算上の倍率が100倍なら95~105倍くらいの範囲で変わるということです。)

具体的に計算する方法はメガネのレンズなどの補正値として使われる「ディオプター」という考え方を使うと、わりと簡単に求めることができるのですが、「超々」シリーズの趣旨とは外れてしまうので個々では割愛します。

こんな話をすると、倍率というのは結構いい加減なものだと思われるかもしてないのですが、実はもっといい加減になる要素があります。

日本工業規格(JIS)では望遠鏡の対物レンズや接眼レンズの焦点距離について許容誤差というものを定めています。

いずれも表示している焦点距離に対して±5%とというのが規格で定められています。

さすがに対物レンズの焦点距離は5%も違ってしまうと鏡筒の長さによってはピントが合わなくなる可能性が出るため、2%以下の誤差になっていることがほとんどのようです。

ここで対物レンズの焦点距離を1000mm、接眼レンズの焦点距離を10mmとするとそれぞれの公差範囲は

・対物レンズの焦点距離:980~1020mm
・接眼レンズの焦点距離:9.5~10.5mm

ということになり、この範囲で最低と最大の倍率になる組み合わせでは、

最大倍率 = 1020 ÷ 9.5 = 107 倍
最低倍率 = 980 ÷ 10.5 = 93 倍

となり、最大13%も倍率が変わります。

これに視力による倍率の変化が加わると・・・ と考えると本当に倍率っていい加減なものだということになります。

ときどき、倍率の表示で「133.3倍」などと小数点以下までの計算をしているのを見かけますが、いかに無意味なことであるかがおわかり頂けると思います。

いいとこ上位2桁で言いあらわせば充分で、これでさえ計算上の倍率と割り切って考えるようにした方がよいです。

几帳面な方にとっては、とても気持ちが悪いかも知れないのですが、倍率ってそんなものなんですね・・・

スタパオーナー について

たくさんのかたに星空の美しさ、楽しさを知って頂きたくて、天体観測のできるペンションを開業しました。
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